ずっと探していた人は
先日発売されたばかりのそのリップクリームは、保湿効果が抜群なのに安価で、ドラッグストアでは発売日から売り切れが続いていた。

「モデル仲間もすごくいいって言っていたから、加恋にプレゼントしたくて」

そう言うと、涼くんは、ごめんね、と謝った。

「最近忙しくて全然会えていないよね。クリスマスもお正月も会えないどころか全然連絡もできなくてごめんね」

涼くんは、か細い声でもう一度謝った。

涼くんは最近、より一層多忙を極めていた。

「去年、自分が人気になる一方で、学校では加恋に迷惑かけたりしたでしょ」

涼くんの言葉に、先輩からの嫌がらせを思い出して不愉快な気持ちが包み込む。

そんな気持ちを振り払おうと大きく深呼吸をする。

「けどさ、俺、思ったんだ」

涼くんは私と目を合わせるようにかがむ。

「やっぱり加恋のこと、大切にしたい。どんなモデルや女優と会ったって、全然ときめかないんだよ。こんなにドキドキするのは、加恋と会う時だけなんだよ」

「涼くん……」

「いつも一緒にいられないのは俺もすごい辛いよ。いつでも加恋のそばに入れたらどれだけ幸せなんだろうとも思う」

涼くんの手が私の頭に触れる。

「けれど、それでも俺はモデルを続けたい。わがままかもしれないけれど、モデルの仕事も、本当に楽しいし、やりがいを感じているんだ。モデルの俺ごと、加恋には俺のことを好きになってほしい、好きでいてほしい」

そこまで言うと、涼くんはいつものように明るい声で続けた。

「今日は仕事ないから、一緒に帰ろう」

下駄箱前で待っているね、そう言い残すと涼くんは、颯爽と廊下を歩いていく。

“好きでいてほしい”

こんな言葉、これから先何人の人に言ってもらえるんだろう。

仕事でいつも綺麗な人に囲まれているのに、私だけをしっかり見続けてくれている。

“涼くんのこと、大切にしなきゃ”

頭の中に浮かんだ言葉に、私は納得するという選択肢しかなかった。



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