ずっと探していた人は
バレンタインデーが1週間後に控えた日の放課後、日誌の提出を終えて靴箱に向かうと、見慣れた人影がいることに気づく。

「大橋くん?」

「滝川さん……」

大橋くんは、突然現れた私に驚いたのか、少し固まってから「お疲れ様」と付け加えた。

「徹たちと一緒にバッティングセンター行ったのかと思ってた」

靴を取り出しながら尋ねる。

「俺はバッティングより、ランニングしたくて」

「そっか」

私の答えに大橋くんはうなずいたものの、2人の間に沈黙が流れる。

「な、なんか、久しぶりだね、2人だけで話すの」

大橋くんは緊張しているのか、少しこわばった笑みを向ける。

「そうだね……」

大橋くんをまっすぐ見れず、それを誤魔化すかのように、私はゆっくりと上履きを靴箱に入れた。

昼休みは一緒にご飯を食べているし、休み時間だって一緒に過ごすこともあるし、登下校だってたまに一緒にする。

けれどそれは、「みんなと」であって、「2人で」ではなかった。

いつの間にか、よくくれていたメッセージもなくなっていた。

「最近、野球、どう?」

先程の沈黙が気まずくて、私は思いつくまま大橋くんに話しかける。

大橋くんも私と2人ということに気まずさを感じたのか、たどたどしく答えた。

「だいぶ、下半身を鍛えられたと思う……。投球フォームも安定してきたって、監督も褒めてくれた……」

あ、まだまだ頑張らないといけないけれど、と慌てて付け加えられた言葉を、私は否定するように、自分の言葉を被せた。

「頑張ってるじゃん、大橋くん。練習メニューだって、きっちりマネージャーと……」

そこまで言いかけて、私は止めた。

“涼くんのこと、大切にしなきゃ”

そう思ってから、私は無意識のうちに大橋くんのことを避けていたことに今更ながら気づく。

ううん、大橋くんのことだけじゃない、大橋くんに関する話題も、避けていた気がする。

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