ずっと探していた人は
「加恋、用意終わったんだ」

「うん」

本当は少し前から終わっていたよ。
涼くんにも、声かけたんだよ。

そんな言葉を私は飲み込む。

せっかく会えた日に、嫉妬心から喧嘩をするほど私は馬鹿じゃない。

「帰ろうか」

今は、さっきまで複数人に向けられていたまぶしい笑顔が、私にだけ向けてもらえることだけで十分。

「うん!!」

涼くんは女の子たちに手を振って、私たちはその場を離れた。


「今日幸せな気持ちって言っていたけれど」

さっき教室の前で涼くんが話してくれたことを思い出す。

「何かいいことあったの??」

私の問いかけに、涼くんはふふっと笑った。

「うーんとね、」

涼くんが風に揺れる私の前髪を愛おしそうに触れる。

「まだきちんと伝えることはできないけれど、目標に近づけたんだ」

「目標?」

涼くんの目標ってなんだろう。

「きっとあと1か月もしたら、加恋もびっくりするぐらい、良い報告ができると思うよ」

隣で涼くんがまた完璧な笑顔で私を見る。

涼くんが具体的に教えてくれないときは、たいてい仕事のことだ。

すごく気になるけれど、守秘義務があるから、きっといくら聞いても教えてもらえない。

「そっか、楽しみにしているね」

涼くんの喜びを、本当は今、一緒に共有したい。

隣で嬉しそうに笑う涼くんの隣で、逆に私は少し寂しさを感じた。
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