ずっと探していた人は
「私、最低だ」

小さな声でつぶやく。

せっかく涼くんとデートしているのに、大橋くんのこと考えてしまった。

大橋くんのことなんて、関係ないのに。

どうしてこんなに大橋くんのことが気になるんだろう。

私の彼氏は涼くんなのに。

忙しい中こうやってデートのために仕事を休みにしてくれて。
貴重なチケットを私のために使ってくれて。

こんなに優しい彼氏がいるのに、どうして大橋くんのことばかり考えてしまうんだろうー……。

なぜか急に目頭が熱くなり、私は慌ててハンカチで拭う。

けれど目を閉じても浮かぶのは、大橋くんの笑った顔で。

「大橋くん……」

いつの時かのように、気軽な、なんてことのないメッセージは来ていないかな……。

願いつつスマートフォンを開けたけれど、そこには涼くんからの「トイレの外で待っているね」というメッセージしか届いていなかった。

「もう、考えるの、やめよう」

こんなに自分のことを大切にしてくれている彼氏がいるのに。

あんなにかっこよくて優しくて、みんなに憧れられるような彼氏がいるのに。

それにもう、きっと大橋くんは今頃―……。

「私、何やっているんだろう」

続きを考えないようにするために、わざと小さな声で呟くと、私は気合を入れるために自分の頬っぺたをぺちぺちと数回叩いた。

「よし」

私は大きく何度か深呼吸をして、涼くんの元へ戻った。

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