ずっと探していた人は
「どうして今ここにいるかわかる?」

「どうして…………」

ぎゅっと手を強く握ってくれた涼くんを反射的に見ると、涼くんの目は心配の色で満ちていた。

「あ」

だんだんと少し前の記憶がよみがえる。

「体育の授業中に」

「うん」

「ソフトボールをしていて」

「そうだね」

先生は優しく続きを促す。

「きっと頭にボールが当たりました」

「その通りだよ」

先生が大きくうなずく。

「記憶にも問題ないし、軽い脳震盪かな」

先生は一緒に入ってきた看護師さんから受け取ったカルテを覗き込んだ。

「きっと問題はないけれど、頭のことだし、今日と明日は一応検査入院してね」

明日は1日中検査だから、退院は明後日ね、と付け加えられる。

「入院、ですか…………」

いきなり告げられた入院に戸惑いを隠せず、思わず眉間にしわを寄せてしまう。

そんな私を先生は、ハハッと笑った。

「明日は土曜日だし学校もないしさ、それに何もなかったらすぐに退院できるから」

先生は、何かあったらまた呼んでね、と言葉を残し病室を去った。


「明日は休めないけれど、今日は仕事休むから」

先生と同時に部屋から去って戻ってきた涼くんは、事務所への連絡ついでに、売店でいろいろ買ってきてくれたようで、私のベッドの机にお菓子やジュースを広げながら微笑む。

「そんなことしなくてよかったのに。お母さんもお父さんも後から来てくれるから大丈夫だよ」

「せっかく休み取ったんだから、そんな寂しいこと言わないで」

涼くんは拗ねたそぶりを見せながら軽く抗議をする。

「久々に半日一緒に居れるんだから。楽しい話をしようよ!」

涼くんは、くしゃくしゃと私の頭を撫でた。

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