ずっと探していた人は
「あっ」

病室を出ると、そこには、涼くんがドアにもたれかかっていた。

「おはよう」

涼くんはいつも通り、爽やかに微笑んでくれた。

「加恋!」

由夢が急かすように呼ぶ。

「下でタクシー捕まえているから。早くおいで!」

きっと涼くんがいることも、今2人で話す必要があることも、全部由夢は分かっていたのだろう。

きちんと自分の気持ちを伝えやすいように、由夢はこの環境を作ってくれたのだろう。

由夢の気配りに、私は応えないといけない、ううん、由夢なんて関係ない、私は私の気持ちに、正直になるだけだ。

「涼、くん」

「もう体調は大丈夫?」

「うん…………」

きちんと自分の気持ちに素直になろうと決めたはずなのに、なんて伝えたらいいのかわからず、2人の間に沈黙が流れる。

「体調が大丈夫なら、行って来たら」

「え…………」

思いがけない涼くんの言葉に、私は顔を上げる。

「好きなんでしょ、大橋くんのこと」

「涼くん…………」

「さっき由夢ちゃんと話しているの、聞いちゃった。今日、彼、試合があるんでしょ。応援に行ってあげたら?」

涼くんは、大きく深呼吸をすると、一見いつも通り爽やかに笑ってくれた。

「俺も加恋のこと大好きだよ、けど、だからこそ、加恋が本当に好きなのは誰かわかるんだ」

涼くんに目には、薄っすら涙が浮かんでいた。
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