ずっと探していた人は
もう、笑っている場合じゃないのに。

【ねえ、徹……、笑ってる場合じゃないと思うよ……】

思わず投稿した私のメッセージとほぼ同時に、中川くんからもお叱りのメッセージも入る。

【お前10点はやばくね?】
【このままじゃマジで練習試合出られないぞ】


「加恋ちゃん、徹に勉強教えてくれているんでしょ?」

今から1週間少し前、徹の家の前で偶然徹のおばさんと会った時の会話を思い出す。

「本当に馬鹿だけど、きっと優秀な加恋ちゃんに教えてもらえるのなら、大丈夫ね。赤点取らないようにビシビシ指導してやってね」

期待に満ちた目で私を見つめたおばさんを思い出すと、目の前の徹の10点という現実に、私は胃が痛くなりそうだった。


「滝川!」

自分の名前が呼ばれ、教卓へ近づく。

「よく頑張ったな」

英語の先生の一言と共に返された答案用紙を確認すると、赤色で50と書かれている。

みんなを教えている身として、情けない点数は取れないな、と気合を入れて臨んだ小テスト。

満点は素直にうれしい。

けれど直前に知らされた徹の点数を考えると、今は手放しでは喜べなかった。

「よーし、全員受け取ったな!このテストに出題された単語ぐらいは最低限覚えてテストに臨めよー」

先生が間違いの多かった単語とそのスペルを黒板に書いていく。

【大橋は何点だったんだよ?】

机の中でスマートフォンが震えたのでメッセージを確認すると、中川くんがグループトークにメッセージを送っていた。

そうだ。
徹の点数が衝撃過ぎて、大橋くんのこと、すっかり忘れていた。

少し離れた席の大橋くんを見る。

机の下で手を動かしているから、きっとメッセージを打っているんだろう。

画面に表示されるメッセージを私は待った。

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