ずっと探していた人は
「涼くん…………?」

少し戸惑った私の様子に、涼くんは笑った。


“きちんと気持ち、伝えないとわからないぞ”


徹にそう言われて1か月少し。

私なりにいろいろ考えて、涼くんに自分の気持ちを伝えずにいた。

むしろ、伝えようと思わなかった。
ここ最近の涼くんは、以前に増して、仕事の話をするときは幸せそうで、楽しそうで、
涼くんを見ていると、素直に応援したいと思ったから。

それにモデルとしては、女の子たちに人気があることは喜ばしいことだと、納得したから。

もちろん、完全に納得したわけではない。

無理矢理自分を納得させた部分もある。

けれど一度納得してしまうとー……いつも女の子たちに取り囲まれている涼くんを見ても、不安な気持ちや嫉妬心は自然と減らすことが出来た。

それにやっぱり……涼くんが好きだから、気持ちを伝えて困らせたくないと思った。

“加恋“って、笑って名前を呼んでくれるだけで、今は良い気がした。


「おはよっ」

午後から学校に来るといっていた涼くんは言葉通り、今学校に来たようだった。

その証拠に、背中にリュックがある。

「新しい髪形にしたんだけど、どうかなあ?」

その場で一周くるっと回りながら、尋ねる。

涼くんは少し長めのストレートから、短髪に変わり、パーマをかけていた。

「えっと…………」

涼くんから少し目線を逸らしながら答える。

「とっても、似合っていると思う」

言葉と同時に熱を帯びた頬を冷ますように、私は両手で顔を包んだ。

「ほんと? 嬉しい!」

髪型を変えて少し大人びた涼くんは、満面の笑みを浮かべた。

「今日さ、一緒に帰れる?」

少し不安そうに涼くんが聞く。

テスト勉強で1度一緒に帰ることを断って以来、涼くんがこう聞くときはいつも不安そうな表情を浮かべる。

「今日、加恋に報告したいことがあるんだ」

「報告?」

良いこと? 悪いこと?

そう尋ねた私に、涼くんは内緒だよ、と答えたけれど、口角が少し上がっているから、きっといいことなんだろう。

「大丈夫だよ。一緒に帰ろう!」

涼くんが嬉しいと、私も嬉しい。

はやく報告を聞きたくて、放課後が待ち遠しい。

その気持ちが伝わったのか、涼くんは朗らかに笑った。

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