ずっと探していた人は
「じゃあ終礼が終わったら、連絡するね」

「うん!」

教室のドアまで見送ると、涼くんがかがんでいった。

「今日の加恋も、かわいいよ」

「もう、お世辞はいいよっ」

恥ずかしくて真っ赤になった私の頭をなでると、涼くんは自分のクラスへ向かった。

早く放課後になってほしい。

後何時間我慢すればまた会えるのかな、私は時計を見ながら指を折って数えた。



「それでは、以後気を付けるように」

放課後の職員室。

日直だった私は学級日誌を担任の先生に渡して、職員室を出ようとしていたところ、化学の先生に捕まった。

捕まった理由なんて、先生から言われなくても元からわかっていた。

中学時代から苦手だった化学がもっと苦手になってつまらなくなって、授業中集中していないことが多かったからだ。

「わかりました、失礼いたします」

30分間のお説教が終えられると同時に、反省している素振りで形だけの謝罪をして、私は急いで職員室を出た。

「もう、せっかく涼くんと一緒に帰れる日なのに」

だいたい化学なんて面白くないんだもん。

原子記号覚えたり、物質の密度を計算したりして……この後の人生に役立つことなんてあるの?

ぷりぷり怒りながら私は教室へ急ぐ。

「あ、そうだ」

食堂の前を通りかかった時、ふとある考えが頭に浮かんだ。

「帰り道、涼くんと一緒にアイス食べようっと」

私はお気に入りのアイスクリームを1つ購入し、スカートのポケットからスマートフォンを取り出す。

涼くんのクラスもさすがにもう終わっているよね。

どこで待ってくれているのかな。30分も連絡取れなかったから心配しているかな。

電源ボタンを押して、メッセージを確認する。

【ごめん、急に仕事が入ったから、今日一緒に帰れなくなった】

「ええ?」

メッセージを読んで、思わず声を漏らす。

「え、本当に?」

今までこんなこと、一度だってなかった。

信じられずにもう一度読んでみるけれど、もちろんメッセージが変わるはずもなく。

< 29 / 155 >

この作品をシェア

pagetop