ずっと探していた人は
「はあ…………」

仕事だから仕方がない。仕方がないけれど。

久しぶりに会えたのに。久しぶりに一緒に帰れると思ったのに。

私は購入したばかりのアイスを片手に、とぼとぼ教室へ戻った。

「あれ?」

誰もいないと思っていた教室を覗くと、窓際でゆらゆらと揺れるカーテンから、窓の外を眺めている人影が見える。

私は、誰だろうと思いながらゆっくりドアを開けると、その人影は驚いたようにこっちをみた。

「大橋くん?」

もう部活はとっくに始まっているはずだ。

こんなところで何をしているのだろう。

大橋くんも私がいることに驚いたようで、「帰ったんじゃないの……?」と目を見開きながら尋ねた。

「あ、うん、日誌を提出しに職員室に行ったら、化学の先生に捕まっちゃって」

はあ、とため息をついた私に、大橋くんも苦笑する。

「お疲れ様でした」

「30分も説教されたんだよ、長すぎだよね」

愚痴りながら大橋くんの傍に行き近くの椅子に座ると、大橋くんはその様子をじっと見ていた。

「アイス、食べる?」

1人で帰りながら食べるのもつまらないし。

私は机の上で箱を開けた。

「あ、えっと、」

大橋くんは食べようとせず、何かを言いかける。

「あ、ごめん、練習行かないといけないよね」

「違うんだ。ちょっと今日は練習お休みさせてもらっていて」

大橋くんはふるふると首を横に振る。

「何か用事? もう帰る?」

「ううん」

大橋くんは慌てた様子で否定する。

「あ、甘いもの、苦手?」

男の子って甘いものが苦手な子多いもんね。

そういうと大橋くんはまた勢いよく首を横に振った。

「……こんな光景、彼氏さんが見ると、悲しむと思う」

静かに、けれどはっきり言われた言葉に、思わず私はため息をついてしまった。

「あ、ごめん、偉そうなこと言った」

「違うの」

誤解されたくなくて、本当に違うよ、と念押しする。

「本当はね、彼氏と一緒に帰る予定だったんだ。けど、約束すっぽかされたの。急に仕事入ったって」

「そうだったんだ…………」

聞いてはいけないことを聞いてしまった、という気まずそうな表情を浮かべられて、思わず目をそらす。

「別にいいんだけどね、仕事だから仕方がないし」

気にしていないように明るく言う。

そう、絶対仕事には勝てないのだ。
私がどれだけ愛されていたとしても、涼くんの中で恋愛が最優先事項になることはない。
もちろん最優先事項にしてほしいとは思わないし、仕事を頑張る涼くんを応援したい。

「滝川さんは、強いね」

俺だったら、仕事が大切だってわかっていても、少し寂しいかな。

自分のことでもないのに本当に寂しそうな切ない表情をする大橋くんにつられて、思わず出そうになった本音を私は飲み込んで、話題を変えた。
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