ずっと探していた人は
「大橋くんは? 何していたの?」

部活着を着ていないから、きっと本当に練習は休んでいるのだろう。

「お、俺は…………」

必死に言葉を探す大橋くんを横目に、開けたアイスクリームの箱の中を見ると、私は嬉しくて声をあげた。

「やった!!」

「え?」

急に何事かと、大橋くんも箱の中を覗き込む。

箱の中には、バニラアイスの周りにチョコレートがコーティングされた、丸いアイスクリームが6個並んでいるはずだった。

けれど、そのうちの1つが、星の形をしていた。

「このアイス、星の形してる!!」

「わ、ほんとだ!!」

大橋くんは初めて見たようで、珍しいね、と笑った。

「久しぶりに、笑ったね」

大橋くんの笑顔を見るのは、本当に久しぶりだった。

「そうかな?」

そういう本人は、気づいていないんだろうな。

時々見せる、苦しそうな表情に。思い悩んでいる表情に。

「なにがあったのかわからないけど、話なら聞くから」

アイスを1つ口に運ぶと、想像以上に冷たくて、笑ってしまった。

「つめたっ!!」

食べてみて、アイスクリームの箱を大橋くんの方に押しやる。

「うわ、冷たいねっ!」

大橋くんも、予想よりずっと冷たかったようで、「冷たい冷たい」と言いながら足をバタバタさせる。

その様子がなんだか面白くて笑うと、大橋くんも私につられて笑いだした。

アイスを食べて笑うのなんて、いつぶりだろう。

そんなことがふと頭に浮かんだけれど、考えなかった。

今はただ、笑っていたかった。

なぜか笑いが止まらなくてしばらく笑い続けた後、今なら言える気がして、大橋くんになら言って良い気がして、ぽつりと言う。


「本当は、寂しいよ」


「ん?」

まだ口角を上げている大橋くんは、不思議そうに私を見た。

「彼氏、仕事ばっかりだから」

「あ、そうだよね」

さっきの話の続きをしていることが伝わったみたいで、大橋くんの顔から笑顔が消えた。

「けどね、彼氏にとって私の存在が仕事以上になることって、今までもこれからも、きっと無いの」

“だから正直、諦めの気持ちが大きい”

押し殺していたため息が、思わず出る。

「滝川さん…………」

大橋くんが、何か言いたそうにしたのを気付いたけれど、私は続けた。

「けどね、彼氏、中学校の頃からモデルになりたいって言っててね。その夢が叶ったから、今、本当に楽しそうで幸せそうなの。だから、この気持ちを彼氏に伝えても、困らせるだけだって、彼氏の重荷になるだけだって、わかっているんだ」

だから、と私は続ける。

< 31 / 155 >

この作品をシェア

pagetop