ずっと探していた人は
「いいんだ、このままで。何も伝えないままで、いいんだ」

一気に話した私に、大橋くんは「でも……」とためらいがちに言う。

「俺が滝川さんの彼氏なら、ちゃんと滝川さんの気持ち、知りたいと思う……」

大橋くんは、私の様子を伺う様にチラッと見る。

「私の彼氏も、少しは、私の気持ちを知りたいって、思ってくれていたらいいな……」

思わず出てしまった本音に、大橋くんは、「ごめん、2人のこと、何も知らないのに」と慌てて謝る。

「謝らなくていいよ。大橋くんは何も間違ったこと、言ってないもん」

次は私が首を振る。

「徹にもね、ちゃんと気持ち伝えたほうがいい、って言われているの。けどね、やっぱりもう……私の中では諦めの気持ちが、大きくなりすぎちゃって……」

私は「うん、これでいいんだ」と続ける。

「この話、みんなには内緒ね? 2人だけの秘密、ね」

私はこれ以上この話を続けたくなくて、ニコッと大橋くんに笑う。

そんな私を見て、大橋くんは少し切なげな表情でうなずいた。

「残りのアイスも、食べよう?」

相手のほうへ箱を押したけれど、大橋くんはじっと箱を見つめたままだった。

「大橋くん?」

「俺も、秘密の話してもいい?」

少しの沈黙の後、大橋くんが切り出す。

「ん? いいよ」

何のことだろうと、続きの言葉に耳を澄ます。

「俺、」


“初めて、野球が楽しくなくなった”


大橋くんの言葉が耳に響く。

< 32 / 155 >

この作品をシェア

pagetop