ずっと探していた人は
「わ~!屋台いっぱいだ!!」

「ほんとだね!!!」

花火大会当日、たくさん並んだ屋台に徹と大橋くんが無邪気に騒ぐ。

「花火大会なんて来るの久しぶりだなあ!」

いつもは落ち着いてクールな中川くんも、今日はどこか浮ついているようだ。

「あんまり花火とか興味ないの?」

「いや、夏場はほぼ毎日野球部の練習だったからさ」

「なるほどね」

私の問いに、中川くんは苦笑しながら答えた。

「加恋~! たこ焼きあるよーっ!」

徹たちと一緒に騒いでいる由夢が、私に叫ぶ。

「お、食べよう食べよう!」

5人で仲良く列に並ぶ。

「一人何パック食べる?」

徹が目を輝かせて尋ねる。

「「え、どういうこと?」」

質問の意味が分からず、由夢と同時に聞き返すと、「だーかーら、一人1パックじゃ足んないじゃん」と徹は呆れるように答えた。

「いや、足りるよ、十分だよ」

私と由夢も呆れながら答える。

「他にも屋台いっぱいあるのに、たこ焼き2パックも食べちゃうと、お腹いっぱいにならない?」

私の問いかけに、徹は「ばかだなー」と笑う。

「今日だって今まで練習して来たんだぜ? ペコペコだっつーの!」

結局1人2パックずつ買って、とてもご満悦な野球部の隣で、「花火大会でたこ焼きを食べるのは、私たちの毎年の恒例になりそうだね」と由夢がつぶやく。

アツアツのたこ焼きは、口に入れるとやけどしてしまいそうで、私はふーふー冷ましながら由夢の言葉にうなずいた。

「毎年って、去年も来たのかー?」

「「えっ…………」」

いつからか話を聞いていたのか、由夢に問い返した徹の言葉に、私たち2人は思わず詰まる。

「あ、そうそう、去年も加恋と一緒に来たんだよ」

由夢が少し慌てた様子で言う。

けれど徹はそれに気づかず、そうなんだ~と軽く返した。

早速次に食べるものを探すために歩き始めた男子たち3人の後ろで、由夢がそっと息をつく。

「由夢、ありがとう」

「ううん、去年のことは、加恋も私も、今は思い出したくないでしょ」

そういう由夢は少し寂しそうで、思わず小声で尋ねた。

「やっぱり、達也くんとうまくいっていない?」

「あー、うん」

少し迷ってから、由夢が素直にうなずいた。

「やっぱり学校も学年も違うと、きついかな」

「そうだよね」

「なんかさ、今まで見ようとしてこなかった部分を、見ざるを得ないっていうか。物理的な距離があくと、心の距離も開いたっていうか。前みたいに素直に甘えられないんだよね」

「おーい、お前ら、唐揚げ食うか??」

すっかり2人で話し込んでしまっていたみたいで、前を歩いていた3人は少し離れた屋台の前にいるのが見える。

「食べるよ~!!」

中川くんにそう返事した由夢は、行こう、と私の腕を引っ張る。

「まあ、恋愛なんてなるようになるから。悩んでいても仕方がないんだって」

由夢が自分に言い聞かすようにいった言葉が、私の中でも大きく響いた。

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