ずっと探していた人は
すると、電話の向こうで、りょーう!と呼ばれる声が聞こえた。

「ごめん、もう撮影行かなきゃ。とりあえず嘘だからな?信じてな?」

それだけ言うと、涼くんは電話を切ってしまった。

「え、なにこれ……」

納得できずに、切れた電話の画面を見つめる。

とりあえず嘘なのはわかったけれど……

“ごめんな~”

涼くんの軽い謝罪が頭の中で響く。

涼くん、嘘だって信じていても、私、不安だったんだよ?
仕事が忙しいのは分かるけれど、私、記事で傷ついたんだよ?
あの記事のせいで、私、3年生の先輩たちから、嫌なことたくさん言われたんだよ?

そんな軽い謝罪の言葉が欲しいわけじゃないのに。
ただきちんと記事になった理由と真相が知りたかっただけなのに。

あんな軽い“ごめん”なら、いらなかった。

ふつふつと湧き上がる怒りを抑えようと、私はぎゅっと目を閉じる。

今は教室に戻りたくない。誰かに会いたくない。

けれどそんな私の願いを打ち消すかのように、向こうからこちらへ数人の生徒が歩いてくるのが見えて、私は重い足取りで教室に向かった。

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