ずっと探していた人は
「もしもし」

日付が変わる直前、涼くんから電話がかかってきた。

「ごめん、寝てた?」

車の中なのか、涼くんの声と共にエンジン音が聞こえてきた。

「寝てないよ」

寝ようと思ってたけど、ニュースのことが気になって寝られなかった。

涼くんの声を聞いた途端、昼間の怒りが再燃してくる。

怒りをぶつけてやろうかと思ったけれど、とりあえず涼くんの話を聞こうと、私は口を閉じた。

「今日マネージャーから、記事になった経緯を聞いた。この前泊りがけでドラマの撮影をしていた時、たまたまロビーで会ったんだけど、その時に撮られたみたい」

涼くんの話によると、その日撮ったシーンの出来に、女優さんがあまり納得していないらしく、監督からはOKが出たけれど、出来れば明日もう一度取り直したい、とお願いをされていたのだという。

そしてその話し込んでいたところを記者に撮られてしまい、記事になったと、いうことだった。

「そうなんだ」

一応記事になった理由が聞けて、ホッとする。

けれどその安心も、次の言葉で打ち消された。

「けど今のところ、否定のコメントは出さない方向で話がまとまっている」

「え、どうして?」

嘘なら嘘っていってくれたらいいのに。

そしたら3年生の先輩たちだって、嘘だってわかってくれるのに。

けれど、違うなら違うって言えばいいという、そんな簡単な話ではないみたいだ。

「否定コメントを出さないほうが世間から注目されるから、このまま出さずにいくって。相手の女優、今度主演ドラマするらしいんだけど、前回の作品が視聴率低かったらしくて。少しでも番宣に繋がるんだったら、否定コメントは出したくないって、向こうの事務所が言ってるんだ」

「だから否定コメント出さないの?」

嘘なのに否定コメントを出さないなんて……。

信じられず、私は絶句する。

「うん、この業界では普通にあることらしい」

そういわれてしまえば、業界について何も知らない私は、何も反論はできない。

私はただ黙るしかなかった。
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