ずっと探していた人は
「加恋?」

「私は、私は…………」

“否定のコメントを出してほしい”

素直に伝えると、涼くんは電話口で一瞬黙ってから、続けた。

「ごめん、それは、できない」

相手の先輩女優が出さないって決めたのなら、後輩の俺は出せないんだ。

「そういう業界なんだ。ごめんな」

涼くんはもう一度謝ってくれたけど、私は納得できず、うなずけない。

「数日以内には学校に行くようにするから、その時にまた話そう」

その時の私はただ、涼くんの提案を受け止めるしかなかった。


翌日からも、先輩たちからの嫌がらせは続いた。

ほとんどの休み時間に教室の前に来ては、涼くんの熱愛報道についてこれ見よがしに話す。

そして自分たちの教室に帰る前には必ず私の方を見て、「モデルと女優ならお似合いだよね」と鼻で笑う。

その次の日も、次の次の日も嫌がらせは続いた。

最初は軽かった悪口も、だんだんときついものに変わっていった。

「ブス」「キモイ」「ダサい」

教室に来ては私を罵り、睨みつける。

「公式には出せなくてもさ、せめて涼くんが、あれは誤解だって言ってくれれば良いのにね……」

由夢が心配そうに、私の顔を覗き込む。

嫌がらせされて3日、最初は気にしないようにしていたけれど、さすがに3日も嫌がらせをされ続けると精神的にも参る。

私、この先輩たちに何かした?
今まで何か迷惑かけてきたかな?
例え涼くんのファンでも、彼女っていうだけで、私にここまでひどいことする?

すっかり表情をなくした私に、由夢は言った。

「涼くんが否定してることを伝えると、きっと嫌がらせも無くなるよ?」

由夢の提案に私は首を振る。

確かに、涼くんが、と言えば、少しは収まるかもしれない。

けれど、否定コメントを出さないと涼くんは言っているのに、私が勝手に否定するのは良くないと思った。

「涼くんとは連絡とれているの?」

「ううん、あんまり連絡してない、今雑誌の撮影が立て込んでいるらしくて」

「けれど…………」

何か言いたげの由夢を遮るように言う。

「大丈夫、きっと今だけだから。もうちょっと、耐えるよ……」

由夢に伝えたというより、その言葉はまるで自分に言い聞かせたみたいだった。

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