ずっと探していた人は
涼くんの言葉に、冷静になれた自分がまた消えかけていく。

「加恋のことはすきだけど、俺が勝手にコメントすることで大勢の人に迷惑がかかっちゃうんだ。だから、ごめん。俺だけの判断で否定コメントはー……」

「もう、いいよ」

涼くんの言葉を遮る。

自分が冷静じゃないこともわかっていた。

この言葉を言ってしまうと傷つけることもわかっていた。

こんな言葉を言うなんて最低だとわかっていた。

それでも抑えられなかった。

「結局、私より仕事が大切なんでしょ」

「そんなことない」

私の言葉に涼くんが強く言い返す。

「加恋のことも同じぐらい大切だけどー……」

「もういい」

ぴしゃりという。

「謝って何かが変わるわけでもないから、もう謝らないでほしい」

ごめんねと謝られ続ける方が、なんだかみじめだと思う。

涼くんは私の言葉に絶句し、それからもう1度、ごめん、と言った。

「加恋」

「なに」

悲しくて、苦しくて、イライラして、その気持ちをこの2文字全部に込める。

それが伝わったのか、少し間があいた後、涼くんが尋ねた。

「俺のこと、もう嫌い?」

付き合っていて初めて聞かれたこと。

いつも自信に満ち溢れている涼くんから、こんな不安げで弱々しい言葉なんて、聞いたことがなかった。

少し驚きながらも、私は正直に答えた。

「わからない」

今日何度目の沈黙だろう。

しばらく黙った涼くんは、わかった、と言った。

「変なこと聞いてごめん。明日も学校に行くから、また明日話そう」

「わかった」

これ以上何を話しても同じだと涼くんもわかったのだろう。

おやすみ、の一言で電話が切られた。
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