ずっと探していた人は
やばいよねー、私惚れそうだった~!と両頬を抑えながらキャーキャー騒ぐ由夢に、信じられず確認する。

「あの大橋くんだよ!」

由夢は自分のことでもないのに、それでね、と嬉しそうに続ける。

「『あんた、本当に滝川加恋と付き合ってんの?』って先輩に言われて、なんて答えたと思う?」

「え、なに?」

由夢が教えてくれた大橋くんの言葉に、私さらに真っ赤になってしまった。

『付き合っていないけれど、大切に想っています』

「大橋くん、加恋のことすきだったんだね」

全然気づかなかったよ~という由夢に、「ただ守ってくれただけだって」と照れを隠すようにそっけなく返す。

ふと、大橋くんと初めて話した4月を思い出す。

「好きです」

あの時も、私に彼氏がいることを知りながら、まっすぐ思いを伝えてくれた。

大橋くんの中で、まだ私は特別な存在でいることができているのかな。

もし特別な存在でいることができているのならー……そう思うと心がとても温かくなって、思わず笑みがこぼれた。

「大橋くん、昨日、先輩と言い合ったなんて、何も言ってなかったのに」

「言わないのが愛なんじゃないの?」

ニヤニヤ笑う由夢に、思わず「ばか!」と頭を叩く。


「おー!おはよ!」

「お前ら、ぎりぎりだぞ」

教室に入ると、朝練を終えた野球部たちが、私と由夢を出迎える。

「おはよう……!」

徹の隣で大橋くんが笑いつつも、どこか心配そうに私を見つめる。

大橋くんを見ると、さっき由夢が教えてくれたことを思い出し、自分の顔が赤くなっていくのがわかった。

けれど、きちんと感謝の気持ちは伝えたくて、大橋くんと視線を重ねる。

「昨日はありがとう」

もう大丈夫、と笑顔で言うと、大橋くんは、“よかった”と安心したように笑ってくれた。

そして由夢が言った通りー……、今日以降、先輩たちからの嫌がらせは、ピタッと止まった。
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