ずっと探していた人は
「この曲って、報われない恋について歌っているよね……」

曲が始まると同時に、大橋くんがつぶやく。

「うん、グッバイって言ってるもんね」

「恋人とか好きな人と踊るには、ちょっとイマイチ……?」

大橋くんが隣で、コテンと首をかしげる。

「うん……後夜祭で流すには、ちょっとイマイチかも」

けどね、私はこの曲好きなんだ、というと、大橋くんが「俺も」と賛同する。

「実は俺、この曲に投票した」

「ほんと? 私も投票した。まさか後夜祭で選ばれるなんて思わなかった」

「そうだよね」

もっと明るい恋の歌が選ばれるのかと思っていた、という大橋くんの言葉に、私が「そうだよねえ」とうなずく。


「滝川さんは」

サビに差し掛かったところで、大橋くんがこちらを向く。

「どうして後夜祭、出なかったの?」

大橋くんが尋ねるのは当然だ。

彼氏がいるのに、後夜祭に出ない理由なんてない。
きっとそんな人、後夜祭が始まって以来、私ぐらいだろう。

私はグラウンドから目を背けて、フェンスに寄り掛かる。

「見たくなかったの」

「え?」

大橋くんが不思議そうな表情で私に聞き返す。

「彼氏と一緒にいるところを見られると、また嫌がらせされるんじゃないかって思って。そう思うと、特に後夜祭みたいに大勢の人が集まる場所で彼氏のそばに行けなくて。彼氏は気にするなっていうけど、やっぱり前、きつかったから。嫌がらせされるの。だから後夜祭もだし、文化祭でも、彼氏と一緒にいたくなかったの」

嫌がらせされた日々が思い返され、私はその記憶を振り払うかのように頭を横に振る。

「けどね、そう思いつつも、彼氏が私以外の女の子と一緒にいるところを見るのも、しんどいの」

後夜祭って、ジンクスもあるしね、と付け加える私に、大橋くんは何とも言えない表情をした。

「モデルだから、人気が大切だって言うこともわかる。周りの女の子に、優しく大切に接さなきゃいけないっていうこともわかる。けどやっぱり、それを見るのは、辛くて……」

私、わがままでしょ、と笑うと、大橋くんは、ぶんぶんと大きく横に首を振る。

「大橋くん」

私の話を聞いて、うつむいていた大橋くんが、瞳に切なさを浮かべながら、私を見る。

「由夢から聞いた。先輩たちの嫌がらせから守ってくれたのは、大橋くんだって」

大橋くんは私が知っていたことに驚いたのか、大きく目を見開いた。
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