青に染まる
「あの」
「あ、はい」

 遠慮がちにかけられた声にはっと我に返る。いけないいけない。接客中だというのに物思いに耽ってしまった。

 記憶のことは考えても仕方ないのだ、と放っておく。

 見ると、男の人はリナリアを指差していた。

「これを、花束で、ください」
「かしこまりました」

 今日置いたばかりのリナリア。早速買い手がついて、「よかったね」と心中で呟いた。

 手早く花を包装しながら、なんとなく言葉を投げ掛けてみた。

「贈り物用ですか?」

 リナリアの花言葉は確か、「私の恋を知ってください」──告白にうってつけの花だ。

 おっと、下世話なことを考えてしまった。

「まあ、そうなりますかね」

 困ったような仕草をしながら、そう答えた彼に思わずニヤリとしてしまう。

 彼の容姿なら、引く手あまたにちがいない。この花をもらう人は幸せ者だろう。

 なんとなく心が弾んで、包装をてきぱきと進める。

「まあ、相手が俺をどう思っているかは、わからないんですけどね」

 自信なさげな彼を元気づけようと僕は言葉を連ねる。

「自信持ってくださいよ!  貴方は格好いいんですから、絶対大丈夫ですって!」

 そう言って花束を差し出す。だが、それが受け取られることはなかった。男の人が声を低くして呟いた。泣きそうな声で。

「それを、君が言うのか……!?」
< 19 / 85 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop