青に染まる
 胸元に顔を埋める哀音が可愛くて、よしよしと思わず頭を撫でる。ひとまず扉をぱたんと閉めながら、何があったのかを訊く。

「今日も学校で何かあったんだって?」
「……お袋から聞いたの?」

 哀音の目が据わった。でも安易に嘘を吐くわけにもいかず、僕は首を縦に振る。すると哀音は怒った様子もなく、少し溜め息を吐いて説明した。

「将棋部のやつが図書室に乗り込んできたから、将棋で勝負して返り討ちにした」

 わお、神童くんに負けず劣らずな弟だ。

「ったく、図書室は学校の聖域だっつうのによ……騒ぎやがって」

 聖域という表現に中二感を感じなくもなかったが、少し目を瞑っておこう。

「図書室で騒いだんだ、将棋部の人たち」
「将棋部に限んないよ。おれが今まで返り討ちにした連中みんな図書室で騒ぐから黙らせてやったんだ」

 なるほど。

「哀音は図書室が好きなんだね」
「学校の中の公共の決まり事で静かにしなきゃならないのってあそこくらいだろ? だから騒いだやつを注意したって悪くない」

 よく考えているなぁ、と思う。
 騒いじゃいけないところで騒いだやつを黙らせる。なんか正当防衛っぽいところがあるね。ぐうの音も出ない論理に、僕はちょっとだけ返した。

「程々にね」
「……兄貴が言うんなら」

 俯き加減でそう頷く哀音は、やっぱり可愛かった。
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