青に染まる
 僕はひとまず、彼の後ろにある自分の席へと向かう。まだ拾われていない紙片は、僕の席の方まで散らばってきていた。

 その中にふと、白以外の色彩を見つける。赤だ。赤いハートのシール。

 想像するに、元々は便箋だったのではないだろうか。便箋……手紙、というとなんとなく女子が浮かぶ。女子、手紙、赤いハート……。

「ラブレター?」

 僕が予測すると、幸葵くんの肩がびくんと震える。それからやけに不安げな眼差しで、自分の椅子に寄りかかり、立ちんぼの僕を見上げる。

「相楽はこういうの、気にしますか?」
「えっ」

 唐突な問いに僕は戸惑う。

 ラブレターが気にならないと言えば嘘になるけれど、この場合ラブレター単体に対しての問いなのか破り捨てた彼の心情に対する問いなのか判別がつかない。

「ラブレターは気になるっちゃ気になるかな。一応年頃の男子だし?」

 ラブレターを破るのはどんな心境なのだろうと気にもなった。が蛇が出てきそうな藪であるため、つつくのはやめて話をもう一方の方へ逸らす。喧嘩になるのも嫌だからね。

 僕の返答に、彼は微妙な表情をする。欲しい答えではなかったのだろうが、出た言葉は返らない。幸葵くんがしばしの躊躇いの後、重たそうに口を開く。

「どうせ俺の表面しか、見ていないんでしょう……」

 散らばる紙片を見下ろして告げた一言は、まだ二人しかおらず広すぎる教室に重々しく落ちた。

 表面しか見ていない、と幸葵くんは嘆いた。……いや、嘆いたのだろうか。

 では何に対して嘆いたのか?ラブレターに対してだろうか。告白してきた女の子に対してだろうか。それとも、ありきたりな返答をした僕に対してだろうか。
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