青に染まる
 ひとまず花びらのように散り、床に着いた瞬間に「ごみ」と化した憐れな紙片を一つ拾う。他に誰か来たときにはちょっとした事件になってしまうだろうから、なるべく事は穏便に済ませようと片付けることにした。

「あ、すみません、相楽」

 幸葵くんも気づいて、拾い集める。文字の連なりだったそれは見事にばらばらで、何と書かれていたかはわからない。ただ一つ確かなことは、これを書いた手紙の主が振られたことになるのだろう。彼は気難しい顔をして、紙片を集めていた。

「このことはあまり言い触らさないでくださいね」

 幸葵くんも自分の成したことが気になるようで、僕は無言で頷いておいた。

 幸葵くんにラブレターが来るのは仕方ないことだと思う。顔もいいし成績もいいし、きっとその傍らに立つことができただけでもいいことずくめだろう。女子が狙うのもわかる。

 男の僕でも、綺麗な人だなぁと思うくらいだ。ついでに言うと、夜空を思わせる容貌は幻想的にも見えた。

 ただ何がよくたって、人間性がなければその先に待つのは混迷だろう。僕は見方によっては、その「人間性」というのを垣間見てしまったのかもしれない。白崎幸葵という人物の。

 ラブレターを無意味以下のものにしようと破り捨てる心境。そこに潜む人間性、あるいは本性。

 駄目だ。深く考えようとしても、なんだか(もや)がかかっている。判然としない。たった一つの行動だけで、その人の本性を理解できるなんてあるわけがないのだ。
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