青に染まる
 ラブレターをごみ箱に捨て去れば、心に凝る「何か」ごと朝の一連の全てを忘れることができる気がした。

 幸葵くんにラブレターを送った誰かさんには悪いけれど、これでいいのだと思う。これはその人の問題であって、僕が首を突っ込む必要のない話だ。

 それにその日の朝の出来事が、僕と幸葵くんの間で話題になることはなかった。がそれは僕と彼の間だけであって、他と幸葵くんとは違う。

 昼休みのことだ。

白崎(しらさき)くんはいますか?」

 若干僕には見覚えのある女の子が、彼を呼び出した。幸葵くんは僅かに目を細めたが、その少女の元へ行く。眺めていた教室の男子がざわついた。

「あれ、二組の鈴ちゃんじゃね?」
「やっぱ可愛い」

 そう……彼女とは去年のクラスが一緒だった。可愛い系の美少女として学年でそこそこ人気のある、四宮(よみや)鈴音(すずね)さんだ。

 廊下で二人は話しているようだった。内容はさすがに聞こえない。ただ、教室のガヤがひどい。主に男子。

「くっそぅ、白崎め」
「鈴ちゃんはみんなの鈴ちゃんだぁぁぁ……」
「でも頑張れ鈴ちゃん」

 状況はなんとなくお察しである。

 校舎裏とか中庭とか少女漫画のお決まりのような場所ではないが、昼休みに可愛い女の子が男の子を一人で呼び出しに来る。緊張気味がなければなんでもあり得そうだが、緊張気味で頬が赤らんでいた気がするから……やはり、告白だろう。

 応援する男子の声や女子の黄色い歓声が騒がしい中、哀音お手製の卵焼きにぶすりと箸を刺して持ち上げ僕は淡々とそれを口に運ぶ。

 なんとなく、だが。鈴音さんの一世一代の告白は、失敗に終わる予感がしていた。理由は二つ。

 一つは、今朝の出来事。もしかしたらだが、あの手紙の主は鈴音さんだったのかもしれない。もう一つは、行く前の表情の揺らぎ。そんなにあからさまではなかったが、嫌悪もしくは不快と取れる感情が滲んでいたように思う。

 その悪感情と破り捨てた手紙を繋ぐのは、あまりにも容易な気がして僕は約束通り言い触らさないよう昼食に集中した。


 何も知らない知らない。

 そんな顔で食べた昼食は、料理上手な哀音が作ったはずなのに味がしなかった。
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