青に染まる
 おれの職業は叔母の家のクリーニング屋の手伝い。手伝いというかほとんどのことはやっていて、一日交替くらいで仕事を請け負っている。そうしたのも、叔母の家が伯父の花屋に近いからだ。

 叔母は兄貴のことを諦めきれないおれの想いを知ってくれている。だから毎日定時であがり、兄貴の店に行くのを黙っていてくれるのだ。

 その日はいつもと変わらない日だと思っていた。土曜日で少し人通りのある中を抜けて、兄貴の店へと向かう。店に入るといつも明るい出迎えの言葉が聞こえるはずなのだが……今日は静かだ。店は空いているのにいない?

「こんにちはー」

 不審に思いながらも、店の奥へと入っていく。こういうとき、大抵兄貴は庭の世話に行っているのだ。時間を忘れて花に囲まれていることもしばしば。客足があまりないのをいいことにそうするのはどうかと思うが、実に兄貴らしい。

 だが、その日は違った。いつもなら、声をかければ兄貴は返事をしながら慌てて出てきてくれるのだ。だが今日出てきたのは……。

「どうかしまし──っ」
「てめぇ……!」

 なんでもないような顔でそこにいたのは、十七年前に兄貴を苦しめた挙げ句失踪したあいつ──兄貴の高校時代の同級生、白崎(しらさき)幸葵(こうき)だった。互いに顔は知っている。あの事件のときに、一度顔を合わせているのだから。

「兄貴はどうした?」
「眠っています」
「まさかまた何かしたんじゃないだろうな?」

 問い詰めるおれの視線から逃れるようにそいつは顔を背けた。おれはずかずかと歩み寄り、そいつの襟首を引っ掴んだ。

「てめぇ、今更どの面下げて兄貴に会いに来やがった!?」

 するとそいつは顔を歪めて、泣きそうな顔で(かす)れた声を出した。

「違うんです……」
「何が違うっていうんだよ!?」

 兄貴を傷つけて、苦しめたくせに!!

 何故十七年前のあのときに何も罰を与えなかったのか。憤怒で目の前が赤く染まる心地がした。
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