青に染まる
「ごちそうさまでした」

 沈思黙考だった今日の朝食は、正直よく味を覚えていない。ただ鮭の身を解すのが以前より上手くなったかな、という程度だ。こうやって日常は消費されていく。

 僕は朝食の食器を提げ、洗面所に向かう。

 髪の襟足が外側に跳ねているのはいつものことで、幼い頃からこういう癖がついていたのだと聞かされた気がする。誰にだったか忘れたけど。

「やっぱりまた抜けてるなぁ……」

 髪の毛そのものではない。髪の色のことだ。

 黒髪だったらしいが、まばらに茶髪っぽくなっており場所によっては赤っぽくなっている。ドライヤーのかけすぎみたいな感じだ。

 もちろん、これはドライヤーのかけすぎなどではない。

 いつからなのかは知らないけれど、どうやら僕の髪色が脱色しているかのように薄くなっていた。

 そんなに気苦労が絶えないのかと常連さんに心配されるがむしろ気苦労は感じたことがなく、幼い頃からの夢を叶えられたので充実している──はずだ。

 それとも、僕は知らず知らずのうちに精神的負荷を溜め込んでいるのだろうか?


 だめだ。こんなに忘れっぽい頭で考えたって思い当たる節があろうはずもない。

 この記憶力欠如の良いところは、辛いことでも綺麗さっぱり忘れてしまえることだ。忘れたのに精神的な負荷って残るものなのだろうか。

 まあこれは一つの可能性であって、原因は他にもあるかもしれない。それに髪色が茶色で困ることはないわけだし。

 今日もそんな風に前向きに流す。
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