青に染まる
 習慣で放課後、花壇に向かう。するとそこには一年下のバッジをした男子生徒が。ちょっと背が低く、くりっとした目をしている可愛らしい男の子だ。気配で気づいたのかこちらを振り向き、その大きな目を見開いてきらきらとさせた。

「貴方がもしかして、汀相楽先輩ですか!?」
「あ、はい。えと」

 期待に満ちたきらきらの瞳になんだか圧される。聞くまでもなく、少年は名乗った。

「西園秋弥と申します。是非お会いしたいと思っておりました!」

 感動もひとしおといった表情で僕の右手を両手で掴み、ぶんぶんと上下に振った。こんな漫画みたいなことを現実にする人がいたことに驚きだ。しかも年下の男子。

 チャラいところは全くない。女子で言うところの清純派のような雰囲気が漂っていた。男子に向かって清純派というのはどうかと思うが、西園くんはそう表現するのに相応しい純粋さだった。彼の純粋さに、ふと懐かしさを覚える。

 ──二、三年前まで哀音が僕に向けていた眼差しとそっくりだ。今でも彼は僕に甘えてくるけれど、以前よりドライな感じというか一歩引いた感覚になっている気がする。

 部活動に特に所属することもなく──中学も高校も園芸部がなかった──先輩後輩関係を築くことのなかった僕は、西園くんという存在に新しい風を吹き込まれたような気がした。髪の長さと背丈がちょうど今の哀音くらいだから、少し重ねてしまうところがあるのかもしれない。

「先輩。聞いたところによりますと、おうちでも花を育ててらっしゃるとか」
「うん、誰情報?」

 個人情報の漏洩(ろうえい)が著しい。けれど彼には悪意が一切感じられないので、許せてしまう。

 どうやら夏帆さんからの情報らしい。ぺらぺら喋るのが頭に浮かんだ。

 だが、まあ、いいだろう。花好きに悪い人はいない。
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