青に染まる
 朝日が二人きりの教室を影絵のように切り取っていく。なんだか気まずい。沈黙ばかりが降り注ぐ。

「相楽、座ったらどうです?」
「そ、それもそうだね!」

 何を焦っているのか、座るときにかたんと音を立ててしまった。静寂の中にやけに響く音はやはり、気まずさを生む。

 僕はこっそり便箋を机の中に仕舞った。誰か早く来てくれないかなぁと思いながら、時が過ぎるのを待つ。沈黙を破ったのは、幸葵くんだった。

「相楽は花が好きなんですね」
「ん、そうだよ」

 意外に自然な言葉が来て、ほっとした。

「小さい頃から花屋になるのが僕の夢なんだ」
「いいですね」

 微笑ましそうにする幸葵くんはいつも通りだった。さっきのは考えすぎだったんだろうか。

「夢、今も変わっていないんですね」
「そりゃもちろん。高校出たら花屋に就職するんだ」
「そしたら俺、必ず買いに行きます」
「嬉しい」

 穏やかな陽光の中で、僕は笑った。そして小指を差し出す。

「約束だよ?」
「はい」

 彼も小指を絡めてくる。

 高校生男子が指切りなんて、人前じゃ恥ずかしくてできないけれど、幸葵くんとする「約束」の形としてはいいんじゃないかと思う。
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