青に染まる
「っ!?」

 西園くんが不意にぶるりと震え上がる。

「どうしたの?」
「いえ、急に悪寒が走っただけで……」
「風邪かな。早く帰って休んだ方がいいんじゃ」
「いや、でも委員会の仕事中ですし」
「体が資本だよ」

 彼の体調が心配になって前髪を退け、額を付き合わせた。熱はないようだ。西園くんの頬が赤らんでいたけれど、なんでだろう?

 額を合わせた彼からは、霧吹き型の消臭剤の匂いがした。爽やかな香りだ。ミントかな。……なんとなく匂いを嗅ぎ取ってしまった辺り、僕も哀音や幸葵くんのことは言えない。

「熱はなさそうだね」
「あ……はい」

 西園くんは未だに赤くぽやんとした様子だ。夢現というか。ぼんやりとしたまま、ぽつりと西園くんが呟く。

「汀先輩って、綺麗な目をしていますね……」
「ああこれ? 覚醒遺伝だーってことらしいんだ」

 よくわからないけれど、綺麗って言われるのは嬉しいなぁ。僕は目を細めて笑った。

「ありがとね」

 そういえば目のことについては、あまり褒められた記憶がない。人間って幸せな記憶からなくなっていくらしいからそのせいかもしれないけれど、やっぱり褒められた記憶がないのは寂しいし褒められると嬉しい。

 けれどそんな僕たちを誰かが見ているなんて、思いもしなかった。
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