LOVEHATE~御曹司社長と黒い子作り婚~

食べ終え、席を立とうとした時。


隣のテーブルのカップルの楽しそうな笑い声がして。


なんとなく、そちらに視線を向けた。


ああ、カップルじゃなくて、夫婦なのかも、と思ったのは、女性のお腹が大きかったから。


正確には分からないけど、妊娠後期だろう。


今の私には、なんだか嫌なものを目にしたな、と、
私の斜め前にいるその妊婦の女性から、その向かいに座っている旦那さんに目線を向けた。


その人の横顔を見た瞬間、驚いて目を見開いてしまう。



「千花、知り合い?」


その様子を見ていた、綾知さんのその声は聞こえていたけど。


それに返事が出来なかった。



すると、私の視線を感じてか、その男性はこちらを向いた。


私を見て、同じように驚いている。


「…千花ちゃん?」


何年振りかに聞いたその声に、体がざわざわとする。


嫌悪感。



「健斗、知り合い?」


その奥さんが、そう訊いて、私の顔と向かいの夫の顔を交互に見ている。


谷原健斗(たにはらけんと)


昔、私の家庭教師をしていた男性。


あれは、私が高校二年生の時で、
この人が大学四年生だった。


なんで、この人に会うのだろうか?


もう二度と会う事もないと思っていたし、
会いたくなかったのに。



「昔、家庭教師してた子」


冷静さを取り戻し、谷原先生は奥さんにそう話している。


「あ、そういえば、学生の時、そんなアルバイトしてたね?
思い出した」


その奥さんの言葉で、
その頃から、この二人は付き合っていたのだと知る。


あの当時、この人には彼女が居たんだ、となんだか許せない気持ちになる。


別に、この人の事好きでもなんでもなかったけど。


だから、この人に彼女が居るかどうかも訊いた事もなかった。

< 92 / 148 >

この作品をシェア

pagetop