LOVEHATE~御曹司社長と黒い子作り婚~
食べ終え、席を立とうとした時。
隣のテーブルのカップルの楽しそうな笑い声がして。
なんとなく、そちらに視線を向けた。
ああ、カップルじゃなくて、夫婦なのかも、と思ったのは、女性のお腹が大きかったから。
正確には分からないけど、妊娠後期だろう。
今の私には、なんだか嫌なものを目にしたな、と、
私の斜め前にいるその妊婦の女性から、その向かいに座っている旦那さんに目線を向けた。
その人の横顔を見た瞬間、驚いて目を見開いてしまう。
「千花、知り合い?」
その様子を見ていた、綾知さんのその声は聞こえていたけど。
それに返事が出来なかった。
すると、私の視線を感じてか、その男性はこちらを向いた。
私を見て、同じように驚いている。
「…千花ちゃん?」
何年振りかに聞いたその声に、体がざわざわとする。
嫌悪感。
「健斗、知り合い?」
その奥さんが、そう訊いて、私の顔と向かいの夫の顔を交互に見ている。
谷原健斗(たにはらけんと)
昔、私の家庭教師をしていた男性。
あれは、私が高校二年生の時で、
この人が大学四年生だった。
なんで、この人に会うのだろうか?
もう二度と会う事もないと思っていたし、
会いたくなかったのに。
「昔、家庭教師してた子」
冷静さを取り戻し、谷原先生は奥さんにそう話している。
「あ、そういえば、学生の時、そんなアルバイトしてたね?
思い出した」
その奥さんの言葉で、
その頃から、この二人は付き合っていたのだと知る。
あの当時、この人には彼女が居たんだ、となんだか許せない気持ちになる。
別に、この人の事好きでもなんでもなかったけど。
だから、この人に彼女が居るかどうかも訊いた事もなかった。