この景色を、君と何度も見たかった。
肌寒くなっていた頃。はると待ち合わせをして行き先もなく歩いた。
2人で歩いているときに彼女は立ち止まって涙を流し始めた。
「大丈夫?」
と声をかけることしかできなかった。
だけれど彼女は
うん
と言ってすごく暗い顔をしていた。
神様なんてほんとにいるのかと思った。
だからまたあの人同じ場所に行こうと僕が誘った。
そうすると彼女はは少しさっきより穏やかな顔で
うん
と言った。
彼女が幸せならばそれでいいと思った。
けれど今の彼女はとても辛そうだ。
移動している途中後ろからいきなり猛スピードで車が僕たちの方へやってきた。
こういう時ってほんとにスローモーションに見えるもんだなぁと思った。
このままでは彼女が危ないと思った。
動こうと思っても動けなかった。
彼女もその車を1点に見つめてじっとしていた。
僕と同じで動けなかったのだろう。
車は止まる様子もないそのままのスピードでどんどんこっち向かってくる。
危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けと
ずっとずっと考えていた。
でも車は止まってくれなさそうだった僕は無理やり体を動かした。
そして彼女を突き飛ばした。
彼女は倒れてしまった。
はるを救いたかった本当にごめん。
痛かったかな傷つけてしまってないかな。
そう思っているうちに僕は轢かれた。
何が何だか分からなかった。
気づいたら轢かれていて引きずられていた。
多分僕が轢かれたところを見たからであろう周りの人たちが悲鳴をあげて叫んでいる。
もう痛くもなかった。
意味がわからないうちに手を見れば血だらけだった。
そして胸の辺りを見れば僕に何か刺さっている。
あーここで僕は死ぬんだなぁと思った。
はると
そして家族と
元に戻った妹と
今まで見た景色をまた何度も見たかった。
こんな所では死ねないと思った。
でも。でも。
運命にには逆らえない。
慌ててはるがこちらへ走ってくるのがわかる。
真っ青な顔をしてこちらへ向かってくる。
そんな顔しないで
と思った。
そして車から出てきたのは、
綾瀬 雛璃だった。
綾瀬雛璃はどうやら死んでいなかったらしい。
多分、
全国に流れていたあれはフェイク動画だったのだろう。
だから死体も見つからずに未解決事件となっているのだ。
そうしているうちに綾瀬 雛璃はナイフを持って近づいてくる。
僕のことを刺すのだろうか
それともはるが刺されるのだろうか。
どっちなんだろう。
どうせ僕は死ぬから。
刺すなら僕を刺して欲しい。
彼女には生きていてほしいと思うから。
Y先生が綾瀬雛璃の父親なんて知らなかった。
その家庭を家族を壊してしまった責任は僕にもあると思った。
でも何故か綾瀬が恨んでいる相手ははるだった。
はるの大事なものはどうやら僕らしい。
だから僕のことを殺すらしい。
意味がわからない。
そしてはるは僕のことを刺した。
正直驚いたよ君のいつもの読めない行動に。
でも受け止められるよ。大丈夫。
きみがどうして僕を刺そうとしたのか。
僕はわかるよ。
もうそろそろだなと思った。
その時はるの日記の1部の内容が頭にたくさん浮かんだ
【はるの日記】
いじめられている友達は毎日泣いていた。
もう楽になりたいと言っていた。
何も分かっていなかった私は、無責任な正義感を振り回しているだけだった。
《死なないで》
と言っていた。
私のこの言葉はあの子を苦しめていただけなのかもしれない。
《無理しないでね》
《生きて》
《明日も学校に来てね、待ってるよ》
《大丈夫?》
私やその周りが投げかけたこの言葉に
「嬉しい」と言っていたあの子の顔が笑っていなかった理由が今わかった気がする。
あの子にとってこの言葉は優しい言葉でも救いの言葉でも無かったのだろう。
あの時、死ぬことに同情してあげればよかったのだろうか。
何度考えても、同情してあげた方が良かったとは思えない。
はるは、
たくさんのことを自分で考えて苦しんできたのだろう。
この日記の中に綴られてある本当の気持ちがその全ての証拠となるだろう。
たくさんのことを経験して、たくさんのことを迷ってきたのだろう。
そして最後の最後まで考えたら何も残らなかったのかもしれない。
だから少しずつ心がなくなっていったのかもしれない。
はるは僕のことを見ていた。
僕はもう少しだけ話したいことがまとまるまでこのままでいようと思っていた。
好きな彼女の隣で死ねるのなら
別にそれはそれで良い最後なのかもしれない。
1人で死ぬよりはマシかなと思っていた。
負け癖がついた僕の人生は彼女と出会ったことで変わった。
やり返しをする強さを学んだ。
黙ってても何も進まないと言うことを実感した。
僕は彼女がいなくなったら怖いと思っていた。
だから彼女がいなくなる前に僕の方が先に死ねるのは嬉しいなと思う。
彼女を1人この世界で残していく事は
少し未練が残るが
今の彼女なら強く生きれると確信できる。
彼女なら大丈夫。
はるは、はるが思ってるより弱くないそう思っている。
だから大丈夫。
(はるの日記)
《1人を落として、毎日を楽しく過ごす。》
こんな事が許されるわけがありませんでした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
はるは憎しみが憎しみを生むと言う言葉が、
きれいごとではなかったことを
本当は心のどこかで知っていたのかもしれないなと思った。
もう少し気づいてあげていたらよかったのかもしれない。
でも僕は気づけなかった。
だから今こんな血だらけで空を見ているのかもしれない。
この世界の誰もがはるを見てこんな過去があるとは思わないだろう。
端から見れば幸せなのだ。
それは僕だって
僕の妹だって
家族だってみんなみんなそうだった。
他人はよく見えるものだ。
それに気づけないから嫉妬したり憎しんだり恨んだりするのだろう。
人間と言うものははほんとによくわからない。
ただ今気づいても遅い。
僕はもうそろそろだから。
だから僕にしか伝えられない言葉ではるに
生きてほしい
ということを伝えようと思う。
(はるの日記)
2017.10.17
今日もNは学校に来た。
でも、
担任の教師Y先生はNのことを馬鹿にした。
授業中の事だった。
「Nさんはまぁできないだろう。まぁいいよ、できない人に何言っても出来ないやろうし笑笑」
クラス中は笑っていた。Nも笑っていた。
--------------------------------------------------------
Nが無理して笑ったように見えました。
でも笑っていたので私はこの事について何もNに聞きませんでした。
Y先生は嫌な生徒のことを馬鹿にしたり、みんなの前でいじりのネタにするような先生でした。
Nはよくいじりの対象でした。だんだんいじりより悪意の方が勝っているように感じました。
Nは
「Y先生のことが苦手だ。Y先生も私のことが嫌いなんだろう。」 と言っていました。
Y先生とNのことを見ていた私はNの言ったことを否定できませんでした。
嘘でも否定していれば、安定した日々は守られていたのでしょうか。
Nがせっかく学校に来てくれているのに、こんなにも私が必死に来てくれるように頑張っているのに、そんなことも知らないで簡単にNの事を傷つけるY先生の事をとても恨みました。
私はずっとずっと許せないと思っていました。
隣のクラスのあの子を助けてくれたY先生の姿など私の記憶から一瞬にして消え、この日から私の中でのY先生はNを追い詰めようとする最悪な先生となりました。
期待していたものが思い通りにいかないと、
裏切られた。失望した。最悪だった。
と悪い記憶やイメージに書き換え、
期待していた通りになれば、
希望だ、最高だ、流石だ、
などと褒め讃える。
人間は何故こんなにも都合がいいのでしょうか。
こんな、答えが出ないような疑問を持つ私がおかしいのでしょうか。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
はるはこの時からずっとずっとY先生のことに憎しんできた。
どうにもできない気持ちだったのだろう。
こんなことを疑問に思いずっと1人で悩んできた。
だからさっき雛璃でもY先生の娘だと知ったら許すことができないといったのだろう。
あんなに笑顔がよく似合う女の子にここまでの憎しみを持たせるY先生はどのような先生だったのだろう。
そして大好きな友達の親が自分にとってこの世で1番嫌いだった人と分かった時、はるはどう思っていたのだろう。
僕には想像ができないほど
やるせない気持ちだっただろう。
たくさんの感情が入り混ざって押しつぶされそうだっただろうと思う。
僕だったら受け止めきれるかわからない。
僕が想像できないほどの痛みを背負っていたと思う。
だからこそはるには幸せになってほしいと思う。
そしてはるが
私幸せだったなーって今思った
って言ってたあの感覚を忘れないでいて欲しい。
自分は幸せになれると思っておいてほしい。
それを信じてほしい。
僕は最後の最後まではると一緒にいてあげられることはできないから無責任かもしれないけれど、
本気で死にたい思った僕の言葉だからこそ伝わるものがあるのではないかなと思った。
それははるにだったら伝わる
とそう信じたかった。
そうしているうちにも意識が薄れていくような感覚になる。
(はるの日記)
この時、親友の気持ちなど何も考えていませんでした。
顔が見えないSNSは、大事なことに気づかせてくれません。
これが誹謗中傷が無くならない世界の核となる部分なのでしょうか。
相手が目の前に居ないだけで、これほど人間は心を失うものなのでしょうか。
今までの相手から貰った優しさも一瞬のうちに忘れてしまう私は、どうしようも無い冷たい人間だったと今となって思います。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
こんなことがあったからはるは、SNSは本当に人を傷つけると言うことを知っていたんだね。
そして親友のおかげでわかったそのことを復讐に生かして親友の過去を無駄にはしたくなかったんだね。
今になって気づいたよ。
ごめん、気付けなくて。
そして1つだけ言える事がある。
やっぱりこの復讐計画は間違っていなかった。
結果はハッピーエンドではなくバッドエンドではあるが、
僕たちが1番納得できる形で終わったのではないかと思う。
他人から見ればどこがと思われるかもしれないけれど、死んだように生きていた僕たちがここまで何かをやり遂げる事ができたと言うことが大切だ。
いつもなら逃げている僕がはるがいたことで逃げなかった。
最後の最後まで戦った。
そこが1番重要な部分でそれ以外はどうだっていい。
自分たちにもできるんだ自分たちにも居場所があるんだと思える場所が欲しかった。
そんな場所を作れた僕たちのこの計画は成功だろう。
はるはこれに気づいているかな。
私が復讐をしたいと思って計画を立てようとしたから
僕が死んだと思わないかな。
僕は最後の最後までおせっかいだ。
最後の最後まで自分よりはるのことを気にしてしまう。
初めてここまで大切だと思えた相手なのだから仕方がないだろう。
僕が死ぬことで彼女が悲しむなら僕は生きたいと思う。
でも今ここで僕が生きてしまえば意味がないと思う。
ドラマの主人公ってきれいにしなくない?
僕も最後くらい主人公になれるかなと少し思った。
最後の最後まで狂ったような思考回路だなぁと思う。
でもそれが僕だ。
それを受け入れられることができたのははると一緒に居たから。
だからこのまま死ぬのがいいそれでいい。
そう思った。
(僕が最後に思い出したはるの日記)
2018.05.26
今日は大雨だった。
Nは来なかった。
自転車に乗りながら、私は泣いていた。
涙も雨も分からない。
誰にもバレていない。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この日の春は泣いていたらしい。
泣かないで
と思う。
僕は彼女が泣いている姿を見たくない。
できればこのまま一生笑っている姿を見たい。
そして僕が死ぬ間際に見る彼女の最後の姿が
笑顔であって欲しい。
そう願った。
このときの彼女は本当に辛かったんだと思う。
心を失う前の人間が泣いているのだから。
心を失ってからは何も感じないけれど、失う前はたくさんのものを感じる。
だから最後の最後まで彼女には明るい言葉をかけたいと思う。
はる、君は生きてね。
君と過ごした最後は
とてもいいものだった幸せだった。
ありがとう。
もうこの気持ちは口には出ない。
話し尽くした。
どうか神様、
僕のこの命と引き換えにこれからも彼女がまっすぐ前を向いて生きることができますように_____。
痛いはずのこの痛みが、
僕にとって心地良いものになっていた。
ありがとう。
この心地の良さは神様が僕に最後にくれるプレゼントなのだろうか。
幸せだな。
僕はそうして目を閉じた。
2人で歩いているときに彼女は立ち止まって涙を流し始めた。
「大丈夫?」
と声をかけることしかできなかった。
だけれど彼女は
うん
と言ってすごく暗い顔をしていた。
神様なんてほんとにいるのかと思った。
だからまたあの人同じ場所に行こうと僕が誘った。
そうすると彼女はは少しさっきより穏やかな顔で
うん
と言った。
彼女が幸せならばそれでいいと思った。
けれど今の彼女はとても辛そうだ。
移動している途中後ろからいきなり猛スピードで車が僕たちの方へやってきた。
こういう時ってほんとにスローモーションに見えるもんだなぁと思った。
このままでは彼女が危ないと思った。
動こうと思っても動けなかった。
彼女もその車を1点に見つめてじっとしていた。
僕と同じで動けなかったのだろう。
車は止まる様子もないそのままのスピードでどんどんこっち向かってくる。
危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない危ない動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動けと
ずっとずっと考えていた。
でも車は止まってくれなさそうだった僕は無理やり体を動かした。
そして彼女を突き飛ばした。
彼女は倒れてしまった。
はるを救いたかった本当にごめん。
痛かったかな傷つけてしまってないかな。
そう思っているうちに僕は轢かれた。
何が何だか分からなかった。
気づいたら轢かれていて引きずられていた。
多分僕が轢かれたところを見たからであろう周りの人たちが悲鳴をあげて叫んでいる。
もう痛くもなかった。
意味がわからないうちに手を見れば血だらけだった。
そして胸の辺りを見れば僕に何か刺さっている。
あーここで僕は死ぬんだなぁと思った。
はると
そして家族と
元に戻った妹と
今まで見た景色をまた何度も見たかった。
こんな所では死ねないと思った。
でも。でも。
運命にには逆らえない。
慌ててはるがこちらへ走ってくるのがわかる。
真っ青な顔をしてこちらへ向かってくる。
そんな顔しないで
と思った。
そして車から出てきたのは、
綾瀬 雛璃だった。
綾瀬雛璃はどうやら死んでいなかったらしい。
多分、
全国に流れていたあれはフェイク動画だったのだろう。
だから死体も見つからずに未解決事件となっているのだ。
そうしているうちに綾瀬 雛璃はナイフを持って近づいてくる。
僕のことを刺すのだろうか
それともはるが刺されるのだろうか。
どっちなんだろう。
どうせ僕は死ぬから。
刺すなら僕を刺して欲しい。
彼女には生きていてほしいと思うから。
Y先生が綾瀬雛璃の父親なんて知らなかった。
その家庭を家族を壊してしまった責任は僕にもあると思った。
でも何故か綾瀬が恨んでいる相手ははるだった。
はるの大事なものはどうやら僕らしい。
だから僕のことを殺すらしい。
意味がわからない。
そしてはるは僕のことを刺した。
正直驚いたよ君のいつもの読めない行動に。
でも受け止められるよ。大丈夫。
きみがどうして僕を刺そうとしたのか。
僕はわかるよ。
もうそろそろだなと思った。
その時はるの日記の1部の内容が頭にたくさん浮かんだ
【はるの日記】
いじめられている友達は毎日泣いていた。
もう楽になりたいと言っていた。
何も分かっていなかった私は、無責任な正義感を振り回しているだけだった。
《死なないで》
と言っていた。
私のこの言葉はあの子を苦しめていただけなのかもしれない。
《無理しないでね》
《生きて》
《明日も学校に来てね、待ってるよ》
《大丈夫?》
私やその周りが投げかけたこの言葉に
「嬉しい」と言っていたあの子の顔が笑っていなかった理由が今わかった気がする。
あの子にとってこの言葉は優しい言葉でも救いの言葉でも無かったのだろう。
あの時、死ぬことに同情してあげればよかったのだろうか。
何度考えても、同情してあげた方が良かったとは思えない。
はるは、
たくさんのことを自分で考えて苦しんできたのだろう。
この日記の中に綴られてある本当の気持ちがその全ての証拠となるだろう。
たくさんのことを経験して、たくさんのことを迷ってきたのだろう。
そして最後の最後まで考えたら何も残らなかったのかもしれない。
だから少しずつ心がなくなっていったのかもしれない。
はるは僕のことを見ていた。
僕はもう少しだけ話したいことがまとまるまでこのままでいようと思っていた。
好きな彼女の隣で死ねるのなら
別にそれはそれで良い最後なのかもしれない。
1人で死ぬよりはマシかなと思っていた。
負け癖がついた僕の人生は彼女と出会ったことで変わった。
やり返しをする強さを学んだ。
黙ってても何も進まないと言うことを実感した。
僕は彼女がいなくなったら怖いと思っていた。
だから彼女がいなくなる前に僕の方が先に死ねるのは嬉しいなと思う。
彼女を1人この世界で残していく事は
少し未練が残るが
今の彼女なら強く生きれると確信できる。
彼女なら大丈夫。
はるは、はるが思ってるより弱くないそう思っている。
だから大丈夫。
(はるの日記)
《1人を落として、毎日を楽しく過ごす。》
こんな事が許されるわけがありませんでした。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
はるは憎しみが憎しみを生むと言う言葉が、
きれいごとではなかったことを
本当は心のどこかで知っていたのかもしれないなと思った。
もう少し気づいてあげていたらよかったのかもしれない。
でも僕は気づけなかった。
だから今こんな血だらけで空を見ているのかもしれない。
この世界の誰もがはるを見てこんな過去があるとは思わないだろう。
端から見れば幸せなのだ。
それは僕だって
僕の妹だって
家族だってみんなみんなそうだった。
他人はよく見えるものだ。
それに気づけないから嫉妬したり憎しんだり恨んだりするのだろう。
人間と言うものははほんとによくわからない。
ただ今気づいても遅い。
僕はもうそろそろだから。
だから僕にしか伝えられない言葉ではるに
生きてほしい
ということを伝えようと思う。
(はるの日記)
2017.10.17
今日もNは学校に来た。
でも、
担任の教師Y先生はNのことを馬鹿にした。
授業中の事だった。
「Nさんはまぁできないだろう。まぁいいよ、できない人に何言っても出来ないやろうし笑笑」
クラス中は笑っていた。Nも笑っていた。
--------------------------------------------------------
Nが無理して笑ったように見えました。
でも笑っていたので私はこの事について何もNに聞きませんでした。
Y先生は嫌な生徒のことを馬鹿にしたり、みんなの前でいじりのネタにするような先生でした。
Nはよくいじりの対象でした。だんだんいじりより悪意の方が勝っているように感じました。
Nは
「Y先生のことが苦手だ。Y先生も私のことが嫌いなんだろう。」 と言っていました。
Y先生とNのことを見ていた私はNの言ったことを否定できませんでした。
嘘でも否定していれば、安定した日々は守られていたのでしょうか。
Nがせっかく学校に来てくれているのに、こんなにも私が必死に来てくれるように頑張っているのに、そんなことも知らないで簡単にNの事を傷つけるY先生の事をとても恨みました。
私はずっとずっと許せないと思っていました。
隣のクラスのあの子を助けてくれたY先生の姿など私の記憶から一瞬にして消え、この日から私の中でのY先生はNを追い詰めようとする最悪な先生となりました。
期待していたものが思い通りにいかないと、
裏切られた。失望した。最悪だった。
と悪い記憶やイメージに書き換え、
期待していた通りになれば、
希望だ、最高だ、流石だ、
などと褒め讃える。
人間は何故こんなにも都合がいいのでしょうか。
こんな、答えが出ないような疑問を持つ私がおかしいのでしょうか。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
はるはこの時からずっとずっとY先生のことに憎しんできた。
どうにもできない気持ちだったのだろう。
こんなことを疑問に思いずっと1人で悩んできた。
だからさっき雛璃でもY先生の娘だと知ったら許すことができないといったのだろう。
あんなに笑顔がよく似合う女の子にここまでの憎しみを持たせるY先生はどのような先生だったのだろう。
そして大好きな友達の親が自分にとってこの世で1番嫌いだった人と分かった時、はるはどう思っていたのだろう。
僕には想像ができないほど
やるせない気持ちだっただろう。
たくさんの感情が入り混ざって押しつぶされそうだっただろうと思う。
僕だったら受け止めきれるかわからない。
僕が想像できないほどの痛みを背負っていたと思う。
だからこそはるには幸せになってほしいと思う。
そしてはるが
私幸せだったなーって今思った
って言ってたあの感覚を忘れないでいて欲しい。
自分は幸せになれると思っておいてほしい。
それを信じてほしい。
僕は最後の最後まではると一緒にいてあげられることはできないから無責任かもしれないけれど、
本気で死にたい思った僕の言葉だからこそ伝わるものがあるのではないかなと思った。
それははるにだったら伝わる
とそう信じたかった。
そうしているうちにも意識が薄れていくような感覚になる。
(はるの日記)
この時、親友の気持ちなど何も考えていませんでした。
顔が見えないSNSは、大事なことに気づかせてくれません。
これが誹謗中傷が無くならない世界の核となる部分なのでしょうか。
相手が目の前に居ないだけで、これほど人間は心を失うものなのでしょうか。
今までの相手から貰った優しさも一瞬のうちに忘れてしまう私は、どうしようも無い冷たい人間だったと今となって思います。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
こんなことがあったからはるは、SNSは本当に人を傷つけると言うことを知っていたんだね。
そして親友のおかげでわかったそのことを復讐に生かして親友の過去を無駄にはしたくなかったんだね。
今になって気づいたよ。
ごめん、気付けなくて。
そして1つだけ言える事がある。
やっぱりこの復讐計画は間違っていなかった。
結果はハッピーエンドではなくバッドエンドではあるが、
僕たちが1番納得できる形で終わったのではないかと思う。
他人から見ればどこがと思われるかもしれないけれど、死んだように生きていた僕たちがここまで何かをやり遂げる事ができたと言うことが大切だ。
いつもなら逃げている僕がはるがいたことで逃げなかった。
最後の最後まで戦った。
そこが1番重要な部分でそれ以外はどうだっていい。
自分たちにもできるんだ自分たちにも居場所があるんだと思える場所が欲しかった。
そんな場所を作れた僕たちのこの計画は成功だろう。
はるはこれに気づいているかな。
私が復讐をしたいと思って計画を立てようとしたから
僕が死んだと思わないかな。
僕は最後の最後までおせっかいだ。
最後の最後まで自分よりはるのことを気にしてしまう。
初めてここまで大切だと思えた相手なのだから仕方がないだろう。
僕が死ぬことで彼女が悲しむなら僕は生きたいと思う。
でも今ここで僕が生きてしまえば意味がないと思う。
ドラマの主人公ってきれいにしなくない?
僕も最後くらい主人公になれるかなと少し思った。
最後の最後まで狂ったような思考回路だなぁと思う。
でもそれが僕だ。
それを受け入れられることができたのははると一緒に居たから。
だからこのまま死ぬのがいいそれでいい。
そう思った。
(僕が最後に思い出したはるの日記)
2018.05.26
今日は大雨だった。
Nは来なかった。
自転車に乗りながら、私は泣いていた。
涙も雨も分からない。
誰にもバレていない。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
この日の春は泣いていたらしい。
泣かないで
と思う。
僕は彼女が泣いている姿を見たくない。
できればこのまま一生笑っている姿を見たい。
そして僕が死ぬ間際に見る彼女の最後の姿が
笑顔であって欲しい。
そう願った。
このときの彼女は本当に辛かったんだと思う。
心を失う前の人間が泣いているのだから。
心を失ってからは何も感じないけれど、失う前はたくさんのものを感じる。
だから最後の最後まで彼女には明るい言葉をかけたいと思う。
はる、君は生きてね。
君と過ごした最後は
とてもいいものだった幸せだった。
ありがとう。
もうこの気持ちは口には出ない。
話し尽くした。
どうか神様、
僕のこの命と引き換えにこれからも彼女がまっすぐ前を向いて生きることができますように_____。
痛いはずのこの痛みが、
僕にとって心地良いものになっていた。
ありがとう。
この心地の良さは神様が僕に最後にくれるプレゼントなのだろうか。
幸せだな。
僕はそうして目を閉じた。