ネコの涙
【7】ヒトミの真実
ヒトミと出会って3ケ月が過ぎようとしていました。

ある日の午後早く、ヒトミが、落ち込んだ顔で帰ってきました。

(どうかしたの?学校は?)

心配そうに、見上げる私に、

『何でもないの、でもね・・・。もう学校なんて行きたくない。』

見る見る彼女の瞳に涙が込み上げてきました。

『ごめんね、カズのお気に入りの絵がなくなっちゃった・・・』

彼女は絵が上手くて、少し前に、私の絵を描いてくれたのです。

私はもちろん大喜びで、壁に貼った自分の絵を何度も眺めました。

今年の校内美術展に、彼女は初めて、その絵を出展したのです。

テーマは「家族」。

母や父、兄弟などの絵が並ぶ中で、1枚だけ貼られたネコの絵は、校内で話題になった様で、ヒトミは興奮気味に話してくれました。

その二日後に起こった出来事です。

『誰かが・・・カズの絵を・・・』

ヒトミが、絵の並ぶ廊下を通りかかると、壁の前にいたみんなが、サっと退いたのです。

その床には、無残に破かれた彼女の絵が、散らばっていました。

それを見た彼女は、その場から、泣きながら走って帰ってきたのでした。

『あんなヤツラ、絶対に許せない!もうこれ以上、ガマンなんてできない!!私の大切な家族の絵を・・・クッソーッ!!』

あんなに激しい彼女を、私は初めて見ました。

『私は何も悪いことしていない!なのに・・・あんなヤツラ、死んでしまえばいい!・・・悔しいよ・・・。どうして私だけ、こんな目に・・・。』

ヒトミの心の痛みや悔しさ、寂しさ、悲しみがひしひしと伝わって来ました。

絨毯についた手に、次から次へと涙がこぼれ落ちていました。

(ヒトミ・・・)

私は、その手を優しく舐めてあげることしかできませんでした。



気が付くと、もう夕暮れになっていました。

『カズ・・・。お前は優しいね。心配させてごめん。お前だけは、私の味方だね。』

だいぶ落ち着いた彼女が微笑みました。

『今夜は、豪華なディナーにしましょ。買い物行ってくるから、待っててね。』

そう行って、彼女はいつもの買い物バッグを持って出て行きました。
< 16 / 25 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop