ネコの涙
私は、あのマンションへと必死で走りました。

最後の角を曲がって、道路を渡ろうとした時です。

左から来た、眩しい光に私は一瞬立ち止まってしまったのです。

『君たちネコってね、車に轢かれそうになった時、固まって動けなくなるんだって。だから、カズは、ここから出ちゃだめだよ。』

ヒトミの声が、頭の中によみがえりました。

(しまったっ!!)

「キキキキーッ!」

「バンッ!!」

とっさに動こうとした時は、もう手遅れでした。

私はその車にはねられ、路上に転がってしまったのです。

暫くは、何が何か分かりませんでした。

(早くしないと・・・ヒトミが・・・ヒトミが・・・)

何とか立ち上がりましたが、体の感覚がなく、思うように歩けませんでした。

そこへ、彼が自転車で帰ってきたのです。

『お、お前・・・カズ・・・か?』

(あれ・・・誰?なんで・・・名前を?)

『カズじゃないか!大変だ!!』

彼は、自転車を投げ出し、私を抱えて、階段を駆け上がりました。

ドアを開ける時、その横に、あの写真で見た文字「和樹」が見えました。

(良かった、辿り着けた・・・。)

『お母さん!お父さん!カズが大変なんだ。助けて!』

私を自分の部屋に運んだ彼は、両親を呼びに行きました。

(ここが、ヒトミの彼の家・・・。)

不思議ともう痛みはありませんでした。

倒れたまま、部屋の中を見渡していた私の目が、ベッドの横の壁で止まりました。

(あ・・・あれは!)

それは、ヒトミが書いた私の絵でした。

破かれた絵は、たくさんのテープで丁寧に貼り合わされ、その壁に飾ってあったのです。

(ヒトミ・・・彼はまだ君を・・・忘れていないよ・・・。)

彼が両親を連れて、戻ってきました。

『瞳ちゃんちのネコか?』

『そうだよ、お父さん。車にはねられたみたいなんだ。医者なんだから、助けてあげてよ!』

『どれどれ・・・』
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