ネコの涙
【2】ご主人さま
その春が終わり、青々とした葉っぱが、私の空を覆い始めた頃です。

夜、私は月を見ていました。

(あの子の名前は、何ていうんだろう…。っていうか…ボクも名前欲しいなぁ…)

その時。

『お父さん、あそこあそこ、ほら。』

一人の男の子が、お父さんと近づいて来ました。

『ほらね。可愛いいでしょ。』

『しかし…、捨てネコだからなぁ。汚いじゃないか。』

(自慢の爪で、引っ掻いてやろうか!)

『飼いたけりゃ、日曜にショップへ連れて行ってやるぞ。』

『だめだよ! このままじゃこの子達、いつか死んじゃうよ。』

(そんなに簡単に殺さないでくれる?)

『お願い、飼ってもいいでしょ?お父さん。』

後で分かったのですが、男の子の母親は、2年前に亡くなっていました。

『分かった分かった。お父さんが、出張でいない時は、ネコでもいないよりゃましか。』

(いちいち、一言多い…。)

『だが、一匹だけだぞ。それもオスがいいな。メスは、子供生んじゃうからな。』

『え~っ!そんな、他の2匹がかわいそうだよ。』

(オスって・・・ボクじゃん。冗談じゃない! 妹達を残して、行くわけにはいかないし、あの子にも会えなくなる。)

『大丈夫さ、一人ぼっちにはならないんだから。それに、二匹なら、誰かまとめて拾ってくれるかもしれないぞ。』

(そ、それは・・・。そうなのかな?ボクは邪魔?)

『分かったよ、お父さん。』

(いや、チョット待って! やっぱり妹達と別れたくない!!)

子猫が人に逆らっても、無駄な抵抗でした。

『おお、なかなか元気な子だ。鳴いて喜んでるじゃないか。』

(「泣いて」頑張ってるの!!)

少年に抱き抑えられ、連れて行かれる私を、妹達の不安そうな目が、見つめていました。

(きっと、大丈夫。あの子がいるから。元気で生きるんだぞ・・・。)

『お父さん・・・。この子泣いてる。』

『バカ。ネコが泣くわけないだろ。』

私にとって、初めての涙というものでした。
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