たぶんもう愛せない
神山秘書が私の提示した条件に合うホテルを探している間に、私の実家に海が挨拶に来た。
両親、とくに母の驚きようは私も思わず笑ってしまった。
母は一度、岸と会っているから、結婚の申し込みが課長ではなく専務になっていて、まるでエビで鯛を釣るみたいな感じになっていたから。
思えば、岸はまめな男だったんだろう、婚約者がいるのに浮気相手の私の親と食事をするとか、あれですっかり私も両親も騙されてしまった。


そして、今日はあの女と再会する。
もう、何も知らない小娘じゃない。


あの雨の日に飛び出した門を通る。
一瞬、緊張がはしる。
私のわずかな異変に気が付いたのか、海が私の肩を抱き寄せた。
「大丈夫だから、リラックスして」

「ありがとう大丈夫です」
でもこれは、武者震いでもある。

この家は二世帯住宅になっていて、門は一緒だが玄関は別々で、渡り廊下で行き来ができるデザインになっている。
昨年、海が結婚することを見越して建て直したらしいが、きっと弥生の思惑が反映された住宅なのかもしれない。

社長の自宅側のドアを開けると、玄関に社長と弥生が立っていた。
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