たぶんもう愛せない
なんとなく気もそぞろに夕食の支度をする。
具材を切って鍋に放り込んで煮込んでいる間に、胡麻をする。

弥生と海の密会中に一人で突撃するのはリスクが大きい。
海は弥生の味方だろうから、それなら海と二人の時に話した方がいいだろうか?
誰もいない所で二人になるのは、もし海が激昂でもしたら私なんか簡単に組み敷かれてしまう。
両親に相談して一緒にいてもらったほうがいいだろうか?でも、あの証拠の動画を両親に見せるのは嫌だ。


「はぁ」

色々と考えているうちに肉じゃがが完成した。
肉じゃがって便利な料理だ、具材を入れて煮込んで放置しているだけで、手の込んだものに見える。
ほうれん草の胡麻和えと具沢山の味噌汁をカートに乗せて持っていく。

ハーブ水を作るのを忘れてしまったので、ルイボスティーを淹れるためティーポットを棚から出した。
棚の上には水切りネットやスポンジのストックが入っているカゴがあり、丁度網状になっている。
新しいスポンジを取り出して丁度網目からレンズが出るようにポケットに入れておいたカメラを少し下向きになるように設置すると、うまく隠れている。
弥生はほとんどキッチンに立たないし、三角コーナーの網を交換するような事もないと思う。
疑心暗鬼になって探せば見つかるかも知れないが、すでにキッチンは調べたかも知れない。
上手くすれば、システムキッチンの先のリビングに誰がきたかくらいはわかるかも。

ティーポットにティーバッグをいれお湯を注いでしばらく放置する間に、料理をテーブルに並べていく。

「肉じゃがか、美味しそうだ」

「お肉は豚肉を使ったんですが、お義父さまは牛肉と豚肉のどちらが好きですか?」

お義父さまは一瞬驚いた表情をしてから「奈緒さんが作る肉じゃがが好きですよ」と笑った。

「明日はお気をつけて」

「ありがとう」


自宅に戻りながら、海と離婚したらお義父さまに食事を作ることは無くなるんだ。

そう思ったら、少し寂しくなった。

< 101 / 126 >

この作品をシェア

pagetop