たぶんもう愛せない
家の近くに来てから盗聴器の受信をすると、初めは甲高い音がしてから、徐々に何か軋む音が聞こえてきた。

門に近くなるとスマホからはスプリングの音に混じり弥生の喘ぎ声が聞こえてきた。

こっそりとお義父様を見ると、険しい表情になっている。

「弥生さんはベッドルームにいるので、私の家の方から入ったほうがいいと思います」

お義父さまは頷くと、一緒に玄関に入った時に、受信アプリから

「あああん、海くんいい。ねぇ、奈緒ちゃんを抱くように抱いてよ、どんなSEXをしてるのぉ」

「弥生さん・・・」

二人の会話を聞いたお義父さまの口から、今まで聞いたことのないほど低く怒りに満ちた言葉が吐き出された。

「下衆」

本当に下衆い。

お義父様は無言で私の前を歩きお義父様の家につながる扉に手をかけようとした時

「匠さんにバレちゃってるわよ」

「まさか」

「匠さんたらあのリースにカメラが設置してたのよ。だからベッドの上の姿は丸見えなの」

お義父様は驚いた表情で私をみたので、小さく頷いた。

「なっ、奈緒は」

「匠さんが言っていればバレてるかもね。でも、大丈夫よちゃんと考えているから」

「考えてるって、まさか」

「どの辺りで飲むかしら?なるべくなら熱海に入ってから効いて欲しいんだけど」

「親父に睡眠薬を・・・何やってんだよ」

やっぱり、前回の事故も弥生だったんだ。前を歩くお義父さまの表情は見えない。
妻と息子に裏切られていたことを知って、今思うことは何だろう、怒り?悲しみ?

「海くん、自分だって奈緒ちゃんに飲ませてるんだから、今更でしょ」

お義父様が立ち止まり、ゆっくりと後ろを向いた。
「奈緒さん」
私は小さく頷くしか出来なかった。
泣きたくないのに頬を涙が伝っていくから。

「俺は・・・」

お義父様はベッドルームのドアを勢いよく開けた。

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