たぶんもう愛せない
「匠・・・さん」
「親父」

一糸纏わぬ男女がベッドの上で惚けたようにドアの主を見つめていた。

「何をやってる」

「・・・どうして、やっぱりカメラは匠さんの仕業だったのね、今日も熱海に行く振りをしてわたしを油断させて。そうよ、見ての通り海くんと愛し合ってたのよ」

「カメラをつけたのは私です」

お義父さまの後ろからでてくると、海の姿があの日の海と重なった。

「奈緒さんが」
ああ、そうかこの人は普段は私を馬鹿にするために“ちゃん”付けしていたんだ。
焦ると“さん”になるのね、これからは見分けるためのいい材料になりそうだけど、もう二度とこの女と関わることはないわ。

「奈緒・・・」

お義父さまが二人の破廉恥な姿を見せないように背中で私の視界を遮ってから
「まずは、服を着なさい。それからリビングに来るように」

そう言って、ドアを閉めた。

「奈緒さんすまない」

「私の方こそ。あの・・・お義父さまのパソコンをお借りしてもいいですか?」

「ああ、構わないよ。勝手に書斎から持って使いなさい」
お義父さまはスマホを上着のポケットから取り出すとどこかに電話を始めた。

私は、書斎からお義父様のモバイルパソコンを手にもつと、キッチンに隠していたSDカード式のカメラを回収してからリビングに向かった。

お義父様の隣に座ると、パソコンのパスワードを解除してもらいSDカードを差し込む。

「それは?」

「じつは、昨日カメラを設置しておいたんですが、何か映っていないか確認しようと思って」
お義父さまに渡したステンレスボトルに何かを入れていないか確認するとは言いにくかった。

今回は時間が大体読めるので、お義父様が出かける前くらいの時間帯のサムネを見ていく。

コーヒーメーカーのガラスポットを手に持った弥生がシステムキッチンに現れた。
リビングからは死角になるが、カメラからだと手元がよく見える位置だった。

お義父さまに渡したステンレスボトルに見慣れたあの粉を入れてからコーヒーを注ぎ、蓋をしてから数回振っていた。

隣で見ていたお義父様がため息をついた。

次にクラウドに保存していた証拠データをパソコンにコピーした所で、二人がリビングに入ってきた。

弥生は不貞腐れたようにソファに座ると足を組み、その隣には借りてきた猫のように下を向き大きな体が小さく見えた。


「それで、いつからだ?」

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