たぶんもう愛せない
黙って聞いていたお義父様が息を一つ吐いた。
「この家を建てるときに、海智が結婚したときにと二世帯住宅にしたのはわかったが、二軒の間を扉一枚で行き来できるように設計させたのは、海智と密会をするためか」

「そうよ、奈緒ちゃんが来る前は海くんの家の至る所でできたから、奈緒ちゃんがきてからは海くんの家では出来なくなったのよね」

「私に薬を飲ませて眠らせていたのは?そんなことをしなくても、外で合えばいいだけじゃない」

「薬?なぁにそれ?」

「誤魔化さなくても分かってます」
小さなビニール袋の写真と研究機関の報告書の写真を見せると海の手がピクリと動いたのが分かった、そして弥生も口元が歪んだのが見えた。

「バカね、そんなの外で会ってたら誰に見られるかわからないし、結婚しているのに海くんの帰りが遅かったりしたら疑われるでしょ?普通に帰ってきて奈緒ちゃんが寝ている間に愛し合って、朝起きると海くんがベッドに戻っていれば奈緒ちゃんも何も知らずに幸せじゃない」

「そのために薬を?お酒に混ぜて飲ませるなんて、これで私の体に変調があったらどうするつもりだったんですか」

「奈緒ちゃんがどうなろうが私には関係ないもの」
さも当然で、なんでそんなことを聞いてくるのが不思議だと言わんばかりの態度に怒りを抑えるために、手をぎゅっと握るとお義父様がそっと手を添えてくれた。それで、少し落ち着くことができた。

「海もそんな風に思っていたの?」

「まさか、そんなことを思うわけがない。それは信じて欲しい」

どの口でそんなことを言うんだろう。

胸をはだけさせた弥生とホテルの廊下でキスをしている動画を起動させると、海は目を見開いて「あの時、見られていたんだ」と呟くとがっくりと肩を落とした。


「結婚式の初夜に新婦に薬を盛って眠らせて、隣の部屋に潜伏している愛人と逢瀬を楽しんだ人間の何を信じればいいの?ここまでしているのに、結婚をした理由は?」

流石にこの行動に対して、お義父さまも呆れてしまったのか、呆気にとられている。

「私は子宮の摘出をしていて子供が産めないのよ、でも海くんの子供が欲しかったから人畜無害そうな女をあてがって子供が生まれたら離婚する予定だったの、でしょ?海くん」

「俺は・・・」

「海くんがこの女を抱いていると思うだけで苦痛なのにぜんぜん妊娠しないし、なんか問題でもあるじゃないの」

「弥生!」お義父様が声を荒げて弥生の言葉を遮った。

「ふふふふふ」
海を支配しているはずの女が私に対して嫉妬する、しかも子供のことで!可笑しくて笑っちゃう

< 110 / 126 >

この作品をシェア

pagetop