たぶんもう愛せない
<1年後>
ピンポーン
来客を告げるチャイムが鳴りドアフォンの画像を見てから「今、行きますね」と答えてから玄関に向かう。
「工藤さん、いらっしゃい」
「お久しぶり、最近はスーパーでも会わなくなったものね」
「どうぞ上がって」
工藤さんは人気のスイーツ店のフルーツタルトをお土産に持ってきてくれた。
「美味しそう。今、ルイボスティーを淹れますね」
「私がやるから、新宮さんは座っていて」
「病人じゃないんだから大丈夫、それならお皿にのせてくれる」
そう言って、お皿とフォークを食器棚から出すとテーブルに置いた。
「結局、テニススクールにあまり行けずに退会になっちゃった」
「仕方ないわよ」
「でも、工藤さんとお友達になれてよかった」
フルーツタルトを口に入れると甘酸っぱい香りとさっくりとしっとりの食感が心地よい。
「おいしい」
「よかった、もうかなり落ち着いたみたいね」
「ええ、つわりもおさまって食欲もたっぷりあるの」
「楽しみね、男の子だっけ」
「そうなの。名前ももう決めているのよ」
「聞いてもいい?」
「もちろん」
「永遠っていうの」
「素敵な名前ね」
「うん、とても素敵で愛おしい名前なの」
私は大きくなったお腹をさすりながら自然と顔が緩んでいく。
「でも、新宮電機の社長夫人だとは思わなかったわ」
「自己紹介でそんなこと言わないものね」
「結構、いるのよ。わざわざ旦那さんの役職を言う人」
「へぇーそうなの」
「そうよ、うちなんて社宅だから夫人カーストがあって気疲れしちゃう。だから、新宮さんと友達になれてよかった」
「私も子育ての先輩だから、色々と教えて欲しいし」
「私でよければ、ところで二世帯住宅なの?」
「ええ、分離型の二世帯住宅なの。だから、玄関はそれぞれ付いているし、前はお互いの家を繋ぐドアがあったんだけど、今は壁にしてウォールシェルフにしてるの。見てみる?」
以前、食事を運ぶために使っていた扉はもうない。
あの日、実家に帰ってこれからどうすべきかを考えていた。それでも、一人では何も考えられずにいたら、翌日、お義父様と海が謝罪に来た。海は不倫をしていたことを認めて謝罪、さらに弥生のベッドルームの家宅捜査の際、出てきた私と海のサインが入った婚姻届を両親に見せて未提出だったことの謝罪もしていた。
「素敵、小さい観葉植物もこんな風に並べるとすごくおしゃれね」
あの扉を覆うように白い壁がつけられ、交互につけられたウォールシェルフには小さな観葉植物を並べている。
もう、ここを行き来する事は無い。
「二世帯住宅かぁ、同居よりもいいかも」
「工藤さんは予定があるの?」
「というか長男の嫁だから、いつかはそんなことがあるかも。でも、こんな素敵な家ならお互いのプライベートも保たれるしいいわね。それでお隣は?」
記入済みの婚姻届を父が破り捨てたのを見てスッキリとした気持ちになった。
最悪な女だったけど、婚姻届を取り上げてくれていた弥生に一つだけ感謝をした。
海はずっと頭を下げたままだった。
「私よりも年上になるんだけど、義理の息子が一人で暮らしているの」
「そうか、旦那さんとは歳の差があるんだっけ」
お金で済むことではないが、相応の慰謝料を支払らわせてほしいとお義父様が言っていたが私が欲しいのはお金では無い。それでも、区切りをつけるためにとお義父様と海が提示した金額は不倫により離婚にいたった場合の上限300万円と婚約不履行の上限300万円を合わせた600万円の支払いをすると言われたが、実際は三ヶ月ちょっとの出来事だから婚約不履行分の慰謝料だけいただくことにした。
「倍くらいかな」
「ご両親は反対しなかったの?」
「色々あったから、両親も諦めたというかでも」
「「幸せだからいいか」」
工藤さんと声が重なり二人で吹き出した。
わざと海のいない時間に、荷物の整理の為に海と過ごした家に行った。
段ボールに荷物を詰めてリビングに置いておく、お義父様からもらったチョコは下段の引き出しに入っている板チョコはまだ残っていた。
これは持っていこう。
婚約指輪と結婚指輪はもらった時は、離婚したら売ってしまおうと思っていたが、ここに置いていくことにした。
引き出しの奥からファイルが出てきた。
そこには結婚後にやるべきことリストが書かれていた。
復讐することに気を取られていてすっかり忘れていた。
財布から保険証を取り出して社会保険のままなのに気がついた。
国民保険に切り替えないと、年金もだ。
そういえば、一度使っちゃったな請求がくるかな?
あの時気づいていれば、婚姻届が出ていなかったことがわかったのかもしれないけど、毎日が気を許す日がなかった。
それに、婚姻届が間違いなく提出されている過去を持っているから記憶がこんがらがってしまっていた。
「じゃあそろそろ、子供が帰ってくるから帰るね」
「今度はお子さんも一緒に遊びに来て」
工藤さんを見送るために一緒に玄関を出る。
私が回帰したのは二人に復讐をする為だけど、海が回帰したのはどうしてだろう?
工藤さんが門から出た後に神山さんが入ってきた。
海の忘れ物でも取りに来たんだろうか?
会釈をして、家に戻ろうとした時
「奥様、お話があります」
「私にですか?」
「永遠くんのことで」
来客を告げるチャイムが鳴りドアフォンの画像を見てから「今、行きますね」と答えてから玄関に向かう。
「工藤さん、いらっしゃい」
「お久しぶり、最近はスーパーでも会わなくなったものね」
「どうぞ上がって」
工藤さんは人気のスイーツ店のフルーツタルトをお土産に持ってきてくれた。
「美味しそう。今、ルイボスティーを淹れますね」
「私がやるから、新宮さんは座っていて」
「病人じゃないんだから大丈夫、それならお皿にのせてくれる」
そう言って、お皿とフォークを食器棚から出すとテーブルに置いた。
「結局、テニススクールにあまり行けずに退会になっちゃった」
「仕方ないわよ」
「でも、工藤さんとお友達になれてよかった」
フルーツタルトを口に入れると甘酸っぱい香りとさっくりとしっとりの食感が心地よい。
「おいしい」
「よかった、もうかなり落ち着いたみたいね」
「ええ、つわりもおさまって食欲もたっぷりあるの」
「楽しみね、男の子だっけ」
「そうなの。名前ももう決めているのよ」
「聞いてもいい?」
「もちろん」
「永遠っていうの」
「素敵な名前ね」
「うん、とても素敵で愛おしい名前なの」
私は大きくなったお腹をさすりながら自然と顔が緩んでいく。
「でも、新宮電機の社長夫人だとは思わなかったわ」
「自己紹介でそんなこと言わないものね」
「結構、いるのよ。わざわざ旦那さんの役職を言う人」
「へぇーそうなの」
「そうよ、うちなんて社宅だから夫人カーストがあって気疲れしちゃう。だから、新宮さんと友達になれてよかった」
「私も子育ての先輩だから、色々と教えて欲しいし」
「私でよければ、ところで二世帯住宅なの?」
「ええ、分離型の二世帯住宅なの。だから、玄関はそれぞれ付いているし、前はお互いの家を繋ぐドアがあったんだけど、今は壁にしてウォールシェルフにしてるの。見てみる?」
以前、食事を運ぶために使っていた扉はもうない。
あの日、実家に帰ってこれからどうすべきかを考えていた。それでも、一人では何も考えられずにいたら、翌日、お義父様と海が謝罪に来た。海は不倫をしていたことを認めて謝罪、さらに弥生のベッドルームの家宅捜査の際、出てきた私と海のサインが入った婚姻届を両親に見せて未提出だったことの謝罪もしていた。
「素敵、小さい観葉植物もこんな風に並べるとすごくおしゃれね」
あの扉を覆うように白い壁がつけられ、交互につけられたウォールシェルフには小さな観葉植物を並べている。
もう、ここを行き来する事は無い。
「二世帯住宅かぁ、同居よりもいいかも」
「工藤さんは予定があるの?」
「というか長男の嫁だから、いつかはそんなことがあるかも。でも、こんな素敵な家ならお互いのプライベートも保たれるしいいわね。それでお隣は?」
記入済みの婚姻届を父が破り捨てたのを見てスッキリとした気持ちになった。
最悪な女だったけど、婚姻届を取り上げてくれていた弥生に一つだけ感謝をした。
海はずっと頭を下げたままだった。
「私よりも年上になるんだけど、義理の息子が一人で暮らしているの」
「そうか、旦那さんとは歳の差があるんだっけ」
お金で済むことではないが、相応の慰謝料を支払らわせてほしいとお義父様が言っていたが私が欲しいのはお金では無い。それでも、区切りをつけるためにとお義父様と海が提示した金額は不倫により離婚にいたった場合の上限300万円と婚約不履行の上限300万円を合わせた600万円の支払いをすると言われたが、実際は三ヶ月ちょっとの出来事だから婚約不履行分の慰謝料だけいただくことにした。
「倍くらいかな」
「ご両親は反対しなかったの?」
「色々あったから、両親も諦めたというかでも」
「「幸せだからいいか」」
工藤さんと声が重なり二人で吹き出した。
わざと海のいない時間に、荷物の整理の為に海と過ごした家に行った。
段ボールに荷物を詰めてリビングに置いておく、お義父様からもらったチョコは下段の引き出しに入っている板チョコはまだ残っていた。
これは持っていこう。
婚約指輪と結婚指輪はもらった時は、離婚したら売ってしまおうと思っていたが、ここに置いていくことにした。
引き出しの奥からファイルが出てきた。
そこには結婚後にやるべきことリストが書かれていた。
復讐することに気を取られていてすっかり忘れていた。
財布から保険証を取り出して社会保険のままなのに気がついた。
国民保険に切り替えないと、年金もだ。
そういえば、一度使っちゃったな請求がくるかな?
あの時気づいていれば、婚姻届が出ていなかったことがわかったのかもしれないけど、毎日が気を許す日がなかった。
それに、婚姻届が間違いなく提出されている過去を持っているから記憶がこんがらがってしまっていた。
「じゃあそろそろ、子供が帰ってくるから帰るね」
「今度はお子さんも一緒に遊びに来て」
工藤さんを見送るために一緒に玄関を出る。
私が回帰したのは二人に復讐をする為だけど、海が回帰したのはどうしてだろう?
工藤さんが門から出た後に神山さんが入ってきた。
海の忘れ物でも取りに来たんだろうか?
会釈をして、家に戻ろうとした時
「奥様、お話があります」
「私にですか?」
「永遠くんのことで」