たぶんもう愛せない
目の前に座り淡々と話をしていた神山さんがペットボトルの水を一気に飲み干すと丁寧にキャップを締めテーブルに置いた。


「奥様に一目惚れした日です」

え?
「それなら、海との見合いを無かったことにすればよかったんじゃ無いですか」

「永遠くんは新宮永遠として新宮電機を継ぐ者として導かないといけないと思いました。だから、見合いをセッティングしたのですが、そこに現れた奥様は“知らない”奥様だった」

どう言うこと?
神山さんのストーリーでは無いということ?


「わたしは永遠くんのことを見届けようと思ってましたが、その最後を見届けることができませんでした。だから、この世界のわたしたちが永遠くんが回帰するためのものなのか、前回の世界で永遠くんがずっと夢を見続けている状態なのかはわかりせん。ただ言えることは、あの世界では永遠くんを除いて全員が亡くなりましたが、この世界ではあくまでもわたしはわたしとして、奥様は奥様として生きているということです」


「永遠が望んだ世界だと言うこと?」


「永遠くんが望んだ、奥様が幸せな世界だということです」

そう言うと、神山さんは深くお辞儀してから「わたしの役目は終わりました」と言って出ていこうとした。

「まだ、終わって無いですよね?」

神山さんは驚いた表情で振り返った。

「見届けるなら、これからが本番ですよね?」

その言葉に、微笑んでから帰っていった。

あんな表情が出来るんだ。
いつも、無表情で嫌な感じを受けていた。でも、あの人なりに責任を感じて生きていたんだ。




お腹をさすりながら
「新宮永遠くん、早く出ておいで」


あなたが望んだ家族の元に

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