たぶんもう愛せない
「嫌な女だなんて、あなたに言われたくないんだけど」

上から目線で大人しい私を糾弾する気満々だった石井由貴は私の一言に息をのみ次の言葉を言い出せずにいる。

言われたい放題だった惨めな女はもういない。

「あなたの結婚相手だけど、婚約者がいるのに何も知らない新人を騙して手を出して、一年以上も騙した上に別れ話も自分で出来ず、いきなり見ず知らずの女が現れて結婚式に呼んであげるとかまくし立てて招待状を郵送もせずに“わざわざ”手渡しするとか、そっちの方がよっぽど常識知らずで嫌な女じゃないの」

周りがざわつき始める。

慌てた石井由貴は分が悪いと感じたのか
「でも、婚約者のいる男と付き合うとかっ」

「私の親を食事に誘ってくれたり、誕生日に二人でお祝いとかしたら騙されてしまうわ。まさか、自分の誕生日を婚約者と過ごさないなんて思わないでしょ」

真っ赤になり全身を震わせる石井由貴をさらに追い込む。

「私は騙されたの、これ以上言いがかりをつけるなら岸課長のことをもっと大ぴらに言ってもいいのよ。写真だって、今見ると胸糞の悪くなるようなLINEの甘い言葉の数々も公表してもいいけど?そこには、自分はフリーだから君のただ一人の男になりたいとかいう言葉も残ってるけど」

周りは水を打ったように誰も何も音を立てない。


「私は、あなたに傷つけられて岸課長に連絡をしようとしたのに電話もLINEもブロックされて、謝罪を受けてないの、あなたか騒がなければ私も大人だしクズ男を見分けるための授業料だと思って黙っていようと思ったのに、でもいい加減、石井さんが騒ぎ立ててうるさいからこれでおしまいにするために、岸課長に今ここにきて謝罪してくれたら全てを水に流すけど、もしそれができないならLINEの内容を上司に提出するわ。私の婚約者に言ってもいいけど、岸課長に遊ばれて捨てられたって」

私の婚約者はこの会社の専務だ。
私の言葉で石井由貴はガタガタと震え出す。
まさかここまで私が反撃するとは思っていなかったんだろう。

もうこれで十分だ、もう私に何かを言ってくることはないだろうし、結婚したら仕事を辞めるんだから。
もう結構です。と言って終わらせようと思っていたところに息を切らせて岸課長が入ってきた。
きっと誰かが連絡したんだろう。
はやく婚約者を連れて行ってほしい。

伝票からクリップを外して、入力を開始しようとした時ポロポロと涙をこぼす岸課長が私の前に立っていた。

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