たぶんもう愛せない
<二度目の結婚式>
「19日は岸課長の結婚披露宴があるんだね」

披露宴会場の最終チェックをして、そのままホテルのレストランで夕食をとっていると海がおもむろに話し出した。
あれだけ騒ぎになったのなら耳に入るのは時間の問題だと思っていたので「来たか」くらいの気持ちで話を聞いている。

「日付にこだわっていたのこういうことだったんだ」

「そうです、岸課長にいいように騙されて捨てられました。もし、この結婚が岸課長のことで傷がついてしまうようでしたら、破談でもかまいません」

「別に気にしませんよ、って、気にならないこともないですが、お互い大人ですから過去があるのは仕方のないことです。ただ、騒ぎについて始末書の提出はしてもらおうと思ってます。婚約者がいるのに新入社員をたぶらかすなど、特に役職のある者の行動としては軽率ですから」

あなたがそれを言うの?あなたは自分の継母と関係があるに。
ふと、怒りが湧いてフォークで肉をゆっくりと切りながら心を落ち着かせた。

「遅くなって申し訳ないが新婚旅行は少し落ち着いたら行きましょう」

「いえ、式を急いだのは私ですし気にしないで下さい」

本当は行く気なんか無いくせに。
前回なんだかんだ言い訳をして新婚旅行に行く前に永遠が生まれた。
今思うと弥生が行かないように海に言っていたのかもしれない、名前の呼び方だけでもあんなに嫉妬するくらいだから。

「気にするよ、年末くらいには休みが取れるようにがんばるよ。それから、式の当日なんだがロイヤルスイートは取れなくてプレミアムスイートになってしまったんだ」

「どうせ疲れて寝るだけだから普通のツインでもいいくらいです」

「そんな切ない事を言わないで、初夜になるんだから」

それには答えず目の前の料理を口に運んでいく。

確かに今回は海とは一度も寝ていない。
なんだかんだと言い訳をして身体をかさねることを避けている。だから海もそんな言い方をしているんだろうけど、欲求不満だけはないわよね。
あの女とたっぷりしてるんだろうし。
ただ前回、海の言う初夜なんて無かった。
披露宴の後二人でゆっくりワインを飲んでいたのに気がつくとベッドの中だった。
隣を探っても誰もいなくて時計を見ると1時過ぎくらいだった気がする。
でも何も考えられないくらいに猛烈に眠たくて、そのまま眠ってしまった。
次に目が覚めたのはドアが開く音がして、頭の中では焦っているのに体が言うことがきかなくてそれでもかろうじて薄く目を開けた時、たしかに海が入ってきた。
翌朝、海に聞いたらトイレだと言っていた。

あの日、確かに薬の量がどうのと言っていた。
もしかすると私はずっと薬を盛られていたのかもしれない。
「二人で食事をしているのに、考え事?」

「ごめんなさい、結婚式が近づいてすこしナーバスになってるのかも」

「それなら、今日はここに泊まって行こうか?」

海に微笑み「ご馳走様、そろそろ帰ります」と伝えた。


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