たぶんもう愛せない
「奈緒、大丈夫?」
「う・・・ん」
「だめっぽい」
目を瞑り体の力を抜いて歩き始めると、海が体を支えてベッドまで連れていってくれた。
「今日は疲れたろ、もう寝よう」
海は私をベッドに横たえると私の隣に横になった。
ずっと気を張っていたからか、目を瞑っていると意識が薄れていくのがわかる。
薄れた意識の中で海が何かを私に言っているが何を言っているのか聞き取る事は出来なかった。
ぴぴぴぴぴ
ぴぴぴぴぴ
ぴぴぴぴぴ
スマホのアラームで目が覚める。
前回の記憶から念のため午前2時にアラームを設定していた。
スマホを取り出すとベッドサイドにある時計の写真を撮る。
2:06
次にバーカウンターの下に設置されているゴミ箱を確認すると、全く私を疑っていないのか薬が入っていたチャック付き袋が無造作に捨てられていた。
一度ゴミ箱に入っている状態で写真に収め、化粧ポーチに入れておいた、薬の入っていた袋よりも大きめのチャック付き袋に氷用のトングで掴んで入れるとしっかりと封をして隠しておいたカメラも一緒にポーチにもどし、ガウンを羽織りスマホと目薬をポケットに入れると部屋を出た。
この13階はL字型のプレミアムスイートの隣にセミスイートがあり、今まさに弥生と海が愛し合っているはずだ。
エレベータの前にはソファが置かれていて4時近くまではすることもなくまずはそこに座りスマホを見る。
セミスイートからプレミアムスイートに戻るにはこのエレベーターとは逆の方向になる。
100%こっちには来ないという確約はないけど、こっちに来たって構わない。
その時は、あなたの姿が見当たらなくてと取り乱したフリでもすればいい。
とりあえず怪しい行動をしていた証拠はあるし、そのままセミスイートのチャイムを連打してやるのも面白い。
あんな無様な死を体験して、海に愛情の一欠片もない今は、こんな結婚いつ終わらせても構わないと思うと、大胆な行動も平気でできる。
前回の私は海を信頼して愛していた。