たぶんもう愛せない
「よかった、わたしは料理とか苦手だから家政婦さんをお願いしていたんだけど、所詮は他人でしょ?家族になる奈緒さんが食事を作ってくれるならそのほうがいいものね」

社長宅でのティータイムで弥生が家政婦を辞めさせるという話を始めた。
前回と同じセリフ

「いや、それでは新婚の奈緒さんに二軒の家事をやってもらうなど申し訳ないだろ。こっちは今まで通りでいいんじゃないか?」

社長が弥生を止めようとするセリフも一緒だ。
前回は、弥生が必死に言いくるめようとしたが、どうせ仕事も辞めたし私が家事をすることに関しては利点も多い。

「私は大丈夫です、仕事も辞めましたので時間を持て余すより体を動かした方がいいので」

「いや、でも」
社長は常識的な人だから、息子の嫁を家政婦のように使うこととに抵抗があるのかもしれない。

「本当に大丈夫です」

「ほら、奈緒さんがいいって言ってるんだから」

「それならば、毎月こちらから奈緒さんに手当てを振り込むことにするよ」

「そこまでしていただかなくても・・・」

「弥生さんは言い出すと止まらないし、どうせ家政婦さんも契約解除したんでしょ。それなら正当な報酬としてもらっておくといいよ。そもそも、俺の都合で仕事をやめてもらうんだし」

そう、流石に専務の奥さんがいると他のスタッフが仕事がしずらいだろうということで仕事をやめることになった。
前回の私は家政婦代わりにつかわれて弥生に対して多少は思うところがあった。
まぁそれは単純に弥生は姑になるから継母とはいえ息子の嫁が面白くないとかそいうことだと思っていたけど実際は意味が全然違っていた。
でも私としても完全に自由になるお金が毎月入ってくるのはありがたいし、社長宅側を自由に歩ける口実にもなる。

「それであれば、お言葉に甘えて報酬を頂くことにします」

「じゃあよろしく頼みます、細かいことは弥生と決めてくれ、わたしはこれから出かけないといけないから失礼するよ」
そう言うと社長である義父は席を立った。
弥生は自分の夫を見送るでもなくソファに座って優雅に紅茶を飲んでいた。

私が何か以前と違うことをしなければ同じ会話が再現される。
この場での会話は前回とほぼ同じだけど、海との生活には違いが出てきている。

結婚式の日から海は以前にも増して私を気遣ってくれている。
前回、弥生と逢瀬を重ねながらも私の前ではいい夫であり、私もそんな海に惹かれていた。
そう、前回の私は海を愛していた。
海がベッドで愛を囁くのは私だけだと信じていたあの頃は、幸せだと思っていた。

結婚式から3日経った今も、私は本当の意味での海の妻にはなっていない。
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