たぶんもう愛せない
「お疲れ様」
海はそう言うとグラスと500mlのビールの缶をを持ってリビングに戻ってくる。

「弥生さんのことはごめんな、家事を奈緒にさせるなんて」

「そのことなら気にしないで、仕事を辞めたし、することもないから」

海がビールのプルトップに指をかける寸前に取り上げてティッシュで開け口を拭いてからプルトップを開けた。

「仕事のこともごめんな」

別に、小さな私の呟きはプシュという音で消える。
グラスを確認しながらビールを注いだ。

長ソファに座る海にグラスを渡すと一人掛けのソファにゆったりと背中をもたれるとビールを一気に飲み干して息を吐く。

「海と結婚したのは私が決めたことだし」

「弥生さんが何か言ってきたら俺に言ってくれていいから」

「ありがとう。ところで何か食べたいものとかある?」

「ハンバーグかな」

「ハンバーグ?」

「子供っぽいよな、母がよく作ってくれて好きだったんだ」

あれ?こんな話初めて。

「どんなハンバーグだったの?」

「ハンバーグの中にチーズが入っていて、今思えばデミグラスソースで煮込んでいた気がする」

「今から買い物に行きませんか?今夜は煮込みハンバーグを作りましょう」

それから二人で近くのスーパーに出かけた。
100円玉を入れてカートを引き出すと、買い物かごを設置する。

「カートは有料でレンタルなのか?」

「これはカートを所定の場所に返せば100円が戻ってくるの」

海はカートが並んでいるのを見ると
「なるほどね、皆んなきちんと戻すから回収する手間が省ける訳だ」

「海はスーパーには来ない?」

いつの間にか海がカートを押していた。
本当に気がきく、小さな優しさをたくさんくれる人だ。だけど、残酷な人。

「自炊もしないし、コンビニには行くけどね。弥生さんは親父の奥さんだけど俺の母親ではないから、スーパーに来たことないし、もちろん食事を作ってもらったこともないんだ」

「そう」
母親じゃないけど愛人だものね、なんだか心が冷えてきた。
< 24 / 126 >

この作品をシェア

pagetop