たぶんもう愛せない
「今日は海が遅くなるって言っていたのでお義父さまと一緒に食べたいと思って持ってきたんですがいいですか?」

「海智が?そうか、一人で食べるより二人で食べる方が楽しいからね。わたしからもお願いするよ」

カートからメインの煮込みハンバーグ、唐揚げ、サラダとチラシの鞠寿司を並べ、最後にフルーツたっぷりのケーキを置いた。
「美味しそうだ」

「ケーキも手作りなんです」

「ほぉ、なんだか思い出すな」

聞いてもいいのかどうかわからないかったので、その思い出を聞くことは憚られた。
お義父さまがハンバーグを一口食べると優しい表情になった。

「このハンバーグ美味しいね」

「実は、海のお母様が煮込みハンバーグを良く作ってくれたって言っていて、それを再現してみたんです」

「うん、よく似てるよ。懐かしい気持ちになる」

「そうなんですね、よかった」

噛み締めるように食べる姿をみて奥様を本当に愛してたんだと感じた。

「奥様は・・・」
迂闊に聞いてはいけない気がして、言葉を飲み込んだがお義父さまは微笑むとゆっくりと話を始めた。

「慶子はいつも穏やかに笑っている人だった。どんなに仕事に疲れていてもそばにいてくれるだけで癒されたんだ。だが、海智を身籠ったときに子宮筋腫が見つかって、安静にしながら何とか産むことができたんだが、それから10年経って子宮肉腫になっていて気がついた時はもう遅かったんだ」

「そうだったんですね」
子供を残していく無念さはどれほどだっただろう。
でも、それほど奥様を愛していたのにどうして弥生のような女と再婚したんだろ。

食事が終わり、デザートとしてケーキを食べるために緑茶を淹れた。

「有名なケーキ屋で買ってきたと言ってもわからないほど凄いね」

「そこまでじゃ無いですよ」

お義父さまは一口頬張ると「うん、甘さを控えていて食べやすいし、ぶどうやイチゴが引き立って美味しいよ」
私も我ながら上手く行って美味しいと思っていたので、たくさん褒めてもらえたのが純粋に嬉しかった。
いい雰囲気だし、この流れで聞いてみよう。

「弥生さんとの馴れ初めは?」

「慶子が他界して海智とどう接していいのかわからなかった。別に不良になったとかじゃないが、むしろ優等生で何も言わないところが不安でもあったんだ。普通、思春期だと色々悩みがあってもおかしく無いのに、何もないの一点張りだったから」

優等生だったんだ。

「そんな時、わたしの秘書になった弥生が海智の学校との連絡をしてくれるようになって、さらに弥生も肉腫の為子宮を摘出したと聞いて、そのことで結婚の話が流れてしまったという話を聞いて同情もあったのかもしれない」
「それで、海智が17歳の時に再婚したんだ。ちょうど海智は受験もあり弥生が力になってくれたようだった。私の弥生に対する感情は妻というより妹に近いのかもしれない。だから、弥生が家事を一切しなくても何も感じなかったのかもしれないな」

最初から弥生のターゲットは海だったってこと?

「だから、奈緒さんが海智のお嫁さんになってくれて嬉しかったんですよ」

しばらく話をして自宅に戻った。
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