たぶんもう愛せない
ベッドの中でタブレットを見ていると海がベッドルームに入ってきた。
サイドテーブルの引き出しから何かを取り出すと隣に座った。

「奈緒、これ」
そう言って手のひらを見せると、あのピアスの片割れがのっていた。

「どうしたの?どこにあった?」

「キッチンの隅に落ちてたよ」

「キッチン?」
海に微笑みながら手のひらからピアスを摘んだ。
「見つかってよかった」

弥生のベッドルームに放置してきたはずのピアスがキッチンからって、そりゃ海が弥生のベッドルームから拾ってきたなんて言えないものね。

引き出しを開けピアスの入っていたジュエリーボックスを開けると片方だけ納まっていたオパールのピアスの隣にはめると一対に収まった。

なんだか

「夫婦みたいだな」

「え?」私もそんなふうに言おうと思った。
一度離れてもこんなふうに隣に戻るとしっくりとくる。
でも、私たちは違う。

「奈緒のことになると、俺はすこし冷静さを欠いてしまうみたいだ。今朝のことは本当に悪かった」

シュンとしているところがやっぱり、叱られた大型犬だ。

「気にしてないよ」

海は「よかった」と言って私を抱きしめた。

「エステはどうだった?」

「海から見てどう?」

「奈緒は、そのままでも綺麗だから」

「その言い方って、やってもやらなくても一緒ってこと?」

「いつも綺麗だけど、磨かれた感じ」

「言わされてる感がすごいよ」

「そんなことないよ」
海はパジャマの上から胸を弄るように触ってくる。
弥生の跡が残る海とはまだしたくない。

「でも、弥生さんの肌の方がきっと綺麗よね」

海の手がぴたりと止まる。

「なんでここで弥生さんがでてくるんだ?」

「だって、弥生さんて本当にツヤツヤで憧れて私も行くことにしたんだもの。でも、まだまだ弥生さんには敵わないわ、女の色気もムンムンだし。ということで、疲れちゃったからお休み」

海に背を向けて目を瞑ると、海は背後から私を抱きしめるも大人しく寝ることにしたようだった。


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