たぶんもう愛せない
お義父さまも秋刀魚と銀杏入り茶碗蒸しは喜んでくれた。
「おいしい」とか「おいしそう」とかそいういう言葉の一つで作り手は幸せな気持ちになる。

今の私は、嘘つきの海の言葉よりお義父さまの一言が嬉しい。

海は息をするように嘘を吐くから。

でも、その嘘つきのために今日も食事を用意して、時々抱かれる。

「はぁ」

ため息をついていても仕方がない。


「ただいま」

海はにこやかにダイニングに入ってくると頭にキスをしてベッドルームに向かった。


「茶碗蒸しか!家で食べるのは初めてだな」

「銀杏が出てたの、茶碗蒸し以外に串に刺して今グリルに入れてあるから、酒の肴にしよう」

「それはうまそうだ」

楽しい食事、楽しい晩酌。

普通に結婚した夫婦なら仲良し夫婦だ。

< 76 / 126 >

この作品をシェア

pagetop