たぶんもう愛せない
夕食の片付けをしている間、海はワインボトルとグラスを持ってリビングに向かった。

お皿の真ん中にアボカドのディップを置くと、その周りにクラッカーを並べて持っていくとワインはすでにグラスに注がれていた。

「アボカドのディップを作ってみました」

「へぇ〜美味しそうだな」

「あっ、海ゴメン、冷蔵庫に生ハムがあるの、持ってきてくれる」

「わかったよ」と言ってキッチンに向かい死角になるところでグラスを交換した。
あわてて置き換えた為、グラスの中身が揺れてしまい、収まりそうもなかった。

どうしよう

海がリビングに入ってくるタイミングで、慌てて自身の膝をテーブルにぶつける寸前にグラスを両手で持ち上げる。

「いったぁ」

生ハムを盛り付けた皿を手に持った海は慌てて近づいてきた。

「大丈夫か?」

「かろうじてグラスを死守できたわ、テニスを初めて反射神経が良くなったのかも」

「そんなに、早く?」そういうと海は笑いながら海の側に置いてあったグラスを私の手から受け取った。

「それにしても、生ハムか」

「カットメロンが売っていたから、海が行くようなお店のとは味が違うけど」

「奈緒が作る料理はなんでも旨いよ」

「ありがとう、乾杯」

チリンとグラスをかさねてから、一杯目を喉に流し込んだ。

薬の心配のないワインは「美味しいね」と言うと、海も微笑みながら一息で飲み込んだ。

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